小説 長編 | ナノ
04
「僕たち皆松野だから、名前で呼んでね」

トド松が筋の通った発言を言ったおかげで、女性陣からの俺たちへの名前呼びは確定した。

トッティ、お前グッジョブすぎるぞ。
今度競馬で勝ったら奢ってやるからな……。
なんて頭の中で悶々と考えていると、今度は女性陣側の自己紹介が始まった。

俺たちとの順番は逆なようで、トド松の真正面に座っている幹事の女の子から自己紹介をし、最後に俺の前に座るあの子がすると言う事になった。

ようやく名前が聞ける!
そう思っていると、失礼だとは思いつつも他の女の子の自己紹介は頭に入ってこなかった。
でも見ていないのはさすがに失礼すぎるので、視線だけは自己紹介をしている子に向ける。

ようやくあの子の隣の子が座り、あの子が自己紹介する番が回ってきた。
あ、なんかドキドキしてきた。

その子が立つと、やっぱり思った通りで背が低く感じた――俺らが座っているからと言う事もあるが、結構低いと思う。

「みょうじなまえです。近くの大学に通ってます、童顔ですが、21歳でーす」

ニコリと笑って軽めの自己紹介を終えたその子は、幹事の子が「それじゃあまずは飲み物頼もうか〜」と言う前にメニューを見ていた。

なまえちゃんって言うのか……。
さすがにまだザ・初対面だし、『なまえちゃん』って呼ぶのはキツイよな、ここは『みょうじちゃん』だ。うん、違和感ない。
フレンドリーさも混ぜたほうが良いしな!
合コンとか初めてだけど。

隣のカラ松にメニューを貰っている間も、なまえちゃんと言う名前のその子を盗み見る。
トト子ちゃんだって凄く可愛い。

でもこの子は何というか、トト子ちゃんとは別のタイプって感じの子で、例えるなら、忌々しくもチビ太が美女薬で変身していたチビ美に似ている。
顔がではなく、体型っていうのかな。
小さい感じ……?

悶々と頭を悩ませていると、その子がメニューをじっと見て「チューハイ……あ、柚子かぁ」と残念そうな表情で次のページをめくっていた。

「なぁなぁ、柚子、嫌いなの?」

話しかけるつもりなんてなかったし、もちろんそんな準備もなかった。
なのにいつも兄弟たちと居酒屋に来ている感覚が芽生え、ついつい話しかけてしまったのだ。

一気に手汗が出てきたが、それはズボンに押し付けて拭き取り、びくりと肩を揺らすなまえちゃんを見つめる。

「まぁそうですね。柚子はなんというか……酸っぱい感じのが無理でして……」

「カタいよ、カタいー。もっとさ、崩してこーぜ? せっかくの合コンなんだからさ!」

俺はてっきり「あー嫌いですよー」だけて会話が終わるかと思いきや、何気に続いてしまった会話のキャッチボールに思わず顔が赤くなった。

「……でも、年上でしょう」

「いーよいーよ別に、年下からタメ口使われても、みょうじちゃん見たいな可愛い女の子からだったら大歓迎だから!」

話しちゃった。
会話しちゃった。
めっちゃ可愛い子と。
しかもみょうじちゃんって呼んだし。

一生分の運を使い果たしたかもしれない。
あれ、俺もしかしてチャラい?
いまの喋り方チャラかった?

うわあああ「こいつ、もしかしてチャラ男なのかな? 怖い」と思われたらどうしよう!
俺全然チャラ男じゃないから!

この子の見た目が大人しそうなので、そう思われていないかとドギマギしていると、なまえちゃんは無言のままメニューで顔を隠し隣の子に「私、生にする」と言ってから、メニューの上の方から俺を覗くようにして赤い顔で見ていた。

……やばい、可愛い。
お世辞とか抜きで可愛い。

こんな子が彼女だったら最高なんだろうなー。
なんて思うけど、付き合えるわけもない。
誰彼にも言われた「ニートだから彼女できない」の自覚はもうとっくにしている。

だけど夢を見たって良いじゃないか。
妄想は自由なんだから。
誰にも迷惑かけないから。


「それじゃ、かんぱーい!」

幹事の子の乾杯の音頭でビールを飲む。
最初と言うだけもあって、皆ビールを頼んだ。

なまえちゃんを見ると、隣の子をチラチラと見ながらビールをちびちびと飲んでいた。
顔が赤くなっていない事を思うと、どうやらなまえちゃんはお酒に強いらしい。

弱くても良かったんだけどなー。
我ながらクズさを実感してしまう。

まぁ、男なんてそんなもんだろ。
なんて思いながら、なまえちゃんの食べているものに目がいった。

た、たこわさ……。
おっさんが食べそうなもんなのに。
普通ここはサラダじゃねーの?
と思いつつも、その飾らないような姿も可愛くて、お酒の勢いに任せて、またなまえちゃんに話しかけた。



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