小説 長編 | ナノ
03
無理やり兄弟皆で末弟のバイト先に押しかけ、その末弟の弱みを握った俺たちはその勢いで合コンに参加し、そして今は居酒屋にいた。

目の前には可愛い女の子が6人。
元は5人程度だったらしいが、俺たちの人数に合わせてくれた様で、1人呼んでくれたらしい。

その事に感謝しつつも、ついつい目の前に座る可愛い女の子に目がいってしまう。
いつもなら壁一面に貼られたメニューにしか目を向けないくせに、つい可愛くて。

地毛なのかは分からないが、少し茶色の入った肩までの黒髪に大きい黒目がちの目。
下を向いているその子のまつ毛は長く、伏せられているせいで余計に長く感じた。
服も今時っぽくておしゃれで、センスに疎い俺でもさすが大学生だなーと思った。

唯一気になったのは、その子の顔が――何というか、少し幼気なのが気になったのだ。
丸顔なせいか、背が小さいからなのか。
よく分からないが、成人してるように見えず、俺は思わずじっと見てしまっていた。

「じゃあ、やっぱりまずは男性陣から、はい、自己紹介をどうぞー!」

その子を見ていたせいで、ぼっーとしていて幹事の女の子が言うほの反応に少し遅れ、長男の俺が一番最初に自己紹介をするという隣に座ってるカラ松の会話さえも聞いていなかった。
いや、それ以前に耳に入らなかったという表現の方が正しいのかは分からないが……。

そんな思いを色々考えるのを一旦止め、俺は椅子を引いて立ち上がって言った。

「俺は松野おそ松、六つ子の長男でーす! 夢はビックだぜ! カリスマレジェンド、人間国宝! って事で、よろしく!」

お馴染みの自己紹介をすれば、どうやら女性陣にはうけたようで、皆「なにカリスマレジェンドってー」などと笑ってくれた。

目の前の気になっている可愛い女の子も、控えめにくすくすと笑っていて、その自然な笑顔に俺は思わずにやけそうになった。
あっぶね、危険なやつ認定されるとこだった。

俺が座ると、今度は上からの順番なので、必然的にカラ松がふっと笑って立ち上がった。

「俺は松野カラ松、六つ子の次男だ。平成のオザキとは俺の事だ……よろしく」

そして座る。
女性陣の反応はまさに「?」マークを頭の上に浮かべているような光景が容易に想像出来てしまうくらいにポカーンとしていた。

でもそんな中、また俺の正面に座るあの子だけはくすくすと笑っていたので、なんだかムッとしてカッコつけたままのカラ松を少し睨んだ。

それに気づいたカラ松が目を見開いて「え? な、何かしたか、俺……?」と小声でボソボソと言ってきたが、そっぽを向いて無視した。

今度はチョロ松が立った。

「六つ子の三男、まっ松野チョロ松です。兄弟が騒がしいと思いますが、まぁ、僕はこの中で一番まともなんて、よろしくお願いします」

噛んだくせに、爽やかスマイルですかぁ?
一番まともって、よく言うぜ。
酔うと一番まともじゃなくなるくせに。

ついつい気になってあの子を見ると、また「ふふっ」と声を漏らして笑っている。
軽い笑上戸なのだろうか。
……良いし、俺が一番うけてるもんねー。

次は一松の番で、一松はゆらりと立ち上がって、背筋をピシリとせず、いつもの猫背のまま自己紹介を始めた。

「松野一松、四男です……よろしく」

何か続きがあるのかと思って、じーっと見ていれば、一松はそれに反してすぐに座った。

つまんねっ!?
こいつ、つまんねぇー!
暗すぎだろ、なんだその自己紹介!
名前と生まれた順と一言だけ!

まぁ、予想はしていたが、一松は普段から口数も少ないしこれが普通なのかもしれない。
そう納得していると、次はヤツの番だった事を思い出し、はっとして十四松を見た。

「はいはいはーい! 松野十四松でーす! 特技はめちゃくちゃ足が速いこと! 好きなことは野球! 遠投80メートルはいけるよ!」

いや、女の子たち遠投80メートルとか分かんの?
すごいけどさ? すごいけどさ?
合コンってこと忘れてねーかこいつ!?

いつもながらの無邪気ゆえの狂人なる弟の姿を遠い目で見つつも、自然と視線はあの子へ。
……うわー、俺あの子完璧ロックオンしちゃってるわー。だって可愛いんだもーん。

「それって助走付けてですか?」
「助走付けなくてもいくよ!」
「すっごい! 野球やってたんですか!?」
「中学生ん時ねー! やってた!」

……なんで盛り上がってんの?
つかあの子野球分かんの?
あー、意味分かんねぇ。

端から、端から2番の席へと飛び交う言葉。
しかもその子は目をキラキラさせて話しているもんだから、俺は自然と拳を握った。

「十四松兄さんそこまでー、次僕ね!」

十四松とあの子の会話を押し切り立ち上がったトド松の姿に、俺は思わず拝みそうになった。
神か? お前は神なのか?
でかしたトド松!

そう思っていると、トド松は何というか――予想外というか予想内の自己紹介を始めた。

「松野トド松、六つ子の六男、つまり末弟だね。趣味は美味しいもの巡り! 趣味はジムとか、登山かなー皆よろしくね!」

え、ちょっと待ってトッティ。
トッティ、え!? ジム!? ジムとか通ってんの!? うっそー初耳なんですけど?

兄弟たちを見ると、皆ぽかーんとした顔でトド松の事を見ていたので、きっと今この瞬間、俺らの脳内は一致したと思う。



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