小説 長編 | ナノ
01
「ひたすら遊んで暮らしてぇ!」
「俺を、養わないか?」
「就職? もちろんまもなく!」
「もっと蔑んでも良いですよ」
「特技? めちゃくちゃ足が早いよ!」
「今日は甘えてみても良い……?」

なんて空間なんだろう。
目の前に同じ顔が6つ、でも性格はそれぞれ違うらしく、皆それぞれ個性を押し出しているような突飛な性格だ。

こんな異様な空気になり始めたのは、ざっと遡ること1時間前ほどと言ったところだろうか。


ここは合コン会場のとある居酒屋。
短大の友達に「合コン行かない? 美味しいもの食べれるよ!」と誘われ、主に美味しいご飯目当てこの合コンに来たのも同然だったが、私はその場のノリもあり「行く!」と返事をしてしまった。

ちょうど彼氏と言える人もいないし、良い人がいたら仲良くなれば良いなー。
そんな軽い気持ちだった。

友達から聞く限り、どうやらバイト先の慶応に通う男の子の兄弟6人と聞いていた。
最初はへー、6人兄弟なんて多いなぁ、それくらいに思っていたが、来てみれば、まさか、まさか六つ子だなんて思うはずもない。

最初の自己紹介タイムは男性陣からしてもらったが、その時の自己紹介タイムを振り返ってみても、最初からおかしかったのだろう。

名前も聞いた時は目どころか耳を疑った。
ありふれた平凡な松野と言う苗字と反し『おそ松、カラ松、チョロ松、一松、十四松、トド松』と言う聞けば聞くほど「え?」と言いたくなるような名前。

6人が自己紹介を終えた後、末っ子と名乗った慶応生の松野さんが「僕たち皆松野だから、名前で呼んでね」と言ったのが始まりで、自然と女性陣から男性陣への下の名前呼びは決定した。

そこは良い。確かに6人全員苗字が松野。
例えば、「松野さーん」と呼べば、6人が「なに?」と返事をしてしまいそうだからだ。

だが、そこで困ったところがある。

この6つの同じ顔。
まぁ早い話、見分けられないのだ。

その時はどうしようと冷や汗タラタラだったものの、馬鹿正直な友達が「見分けられない」と言い、服での判断ということになった。

赤いパーカーがおそ松さん。
ライダースがカラ松さん。
チェックシャツがチョロ松さん。
紫パーカーが一松さん。
黄色パーカーが十四松さん。
オシャレな服を着たのがトド松さん。

しかも赤と紫と黄色のパーカーにシンプルにもプリントされた松のマークのシュールさに吹き出しそうになったのは内緒だ。

私たち女性陣の頭の中では、これを覚えるのに精一杯で本来の合コンの意味など成し遂げないだろうなーと思いつつも、世にも珍しい六つ子に会えたと言う事もあり私は単純にもワクワクしていた。

今度は女性陣の自己紹介タイムに変わり、私とは反対側から次々と自己紹介が始まる。

順番になると立ち上がり、名前と軽い一言を添え淡々と自己紹介を終わらしていく友人たちをチラリと見ながら自分の番になるのを待った。

私の隣に座る友人の自己紹介が終わる。
……私の番、大丈夫。練習したんだから、ネットでも調べたし、絶対バッチリ。
そう自分に喝を入れてから立った。

「みょうじなまえです。近くの大学に通ってます、童顔ですが、21歳でーす」

にこりと笑ってまた座る。
っよし、つかみはオッケー……なはず。

実際、私は結構童顔だ。
お酒を飲める20歳はもう過ぎているのに、コンビニでお酒を買うときなんかは必ずその度に年齢確認を行われるので、所構わず出かける時は、学生証を持ち歩いているくらいである。
もちろん今もバックの中に入っている。

……ああ、合コンって疲れるなぁ。

よくよく思い返せば、私が合コンに来たのは美味しいご飯目当てでだった。

目的を思い出せば、まずはメニューだ。
一番端に座っていた私は、長いテーブルの両サイドに置かれた一方のメニューを取った。

メニューを隣に回し、皆が仲良く「何頼む〜?」と話している中で、私は1人でメニューをペラペラとめくり、周りには聞こえない程度に「チューハイ……あ、柚子かぁ」と呟いては次をめくる。

「なぁなぁ」

その声に思わずびくりと肩を揺らし、反射的に立てていたメニューをパタンと倒した。

声のする真正面を見れば、赤いパーカー――だから……確か、そう、おそ松さん。
彼が頬杖をつき、ニヤリと笑って言った。

「柚子、嫌いなの?」

その言葉にはっとした。
……聞かれてたのか。

「まぁそうですね。柚子はなんというか……酸っぱい感じのが無理でして……」

「カタいよ、カタいー。もっとさ、崩してこーぜ? せっかくの合コンなんだからさ!」

「……でも、年上でしょう」

「いーよいーよ別に、年下からタメ口使われても、みょうじちゃん見たいな可愛い女の子からだったら大歓迎だから!」

何人の女の子に行ってきたんだろうと深読みしてしまうそのキザなセリフに、私はその心情とは反して少し顔が赤くなった。

誰かから、特に異性から「可愛い」と言われることに、私はまず慣れていない。
言われてもいとこだったり叔父だったり。
せいぜい血縁関係者なわけだ。

そんな「可愛い」と言う言葉に耐性のついていない私は、赤くなった顔を隠すために無言で持っていたメニューを顔の前に立てて赤い顔を隠した。

……普通に生でいいや。



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