小説 中編 | ナノ
07
私の顔の横に伸ばした両腕を置き、苦しそうに顔を歪めるカラ松。これは守ってくれているのだろうか。

目を丸くしたまま少しの間カラ松の顔を見ていると、それに気づいたカラ松が私にニコリと微笑みかける姿を目の当たりにしフリーズした。

ああ、なんかこれ、デジャブだ。
ふと私の脳裏に不思議な映像が流れ込む。


『皆ででかけるなんて初めてだね!』

『だね! すっごい楽しみ!』

『遊園地! 遊園地!』


笑いあう6人の同じ顔をした男の子と、小さい頃の私の姿に私の母親とその男の子たちの母親。

思い出した。これはあの時の記憶だ。
家族ぐるみで仲のよかった私達は、親子揃って隣町の遊園地に出かけたんだっけ。

その時、休日だったからか、電車の中は今のようにぎゅうぎゅう詰めで皆苦しそうにしている。

周りは皆大きい大人の人で、その人たちにグイグイと押され、小さい私は今にも泣きそうだ。

すると、1人の男の子が私のいる場所と自分の場所をくるりと交換し、苦しそうな表情をしながらも私ににっこりと微笑みかけて「大丈夫?」と言う。

……やっぱ変わってないんだね。
でも、もうちょっと観察させて?
優しい、カラ松くん。



大きいピンク色の観覧車。
頭上から響き渡る人々の悲鳴。
風船を配る可愛いマスコット。

キラキラの馬車に可愛らしい馬。
アイスクリームにクレープ屋さん。
たくさんの人で賑わっている。

お分かりのように、遊園地だ。


「えっと……なまえ、ここは?」

「見て分かるでしょ。遊園地」

「いや、それは分かるんだが……」


何となく、カラ松の言いたいことは分かった。
でもその言葉を聞くのもなんだか釈で、私は戸惑い顔のままのカラ松の手首を引っ張って、混雑しているチケット売り場へと駆けた。


「はい、着きました遊園地ー!」

「……ここで、遊ぶのか?」

「に、決まってるじゃん。遊園地まで来て遊ばないなんてバカだよ!」

「そ、そうか」


腕を組んだまま頭上から10メートルほど離れたジェットコースターのレールを見つめながら頷くカラ松に、私はニコリと微笑みかける。


「最初、何乗る?」


貰ったばかりの『赤塚遊園地』のパンフレットを広げながらカラ松に聞くと、カラ松は「うーん」と言ってから悩み始めた。


「やっぱりジェットコースターか……? いや、でもここからじゃ遠いしな……近いとすればメリーゴーランド? でも混んでるな……うーん」

「っぷ、あはは。そんなに悩まなくても良いのに! じゃあさ、ちょっと並ぶけどメリーゴーランドにしよう?」

「ああ、そうだな」


彼氏ができたらこんな感じなのかな。

もはや周りからは、付き合っている男女のデートにしか見えないのだろうが、本人たちは違う。

付き合ってはいないが、告白され、返事を保留にしているまま遊園地デートをしてくれるカラ松はなんて理解が良いのだろうか。

やっぱり電車の時もそうだ。
変わってないのかもしれない。
昔の時から、何にも。
外見だけ大人になって、私も同じだ。


「カラ松、クレープ食べよう!」

「良いぞ! ふふ、俺が奢ってやる」

「えーどっからお金でてくるの?」

「そ、それはシークレットだぜ……」


なんてかっこつけつつも、本当に奢ってくれたり、違う種類のクレープを食べて、それを一口ずつ貰いあったり。

昔に戻ったような感じがしてすごく楽しい。
この気持ちにはなんの偽りもない。
本当の気持ちだ――本当の。



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