06
オシャレなお店近くのコンクリートの壁に寄りかかっていると、そのひんやりとした冷たさが壁から伝わってくる。
心の臓まで冷えそうな温度だ。
これからカラ松が来る。
私も悩みに悩んで気持ちを決めたんだ。ずっと私を想っていてくれたカラ松の気持ちを無下にするわけにいかないし、ちゃんと伝えなきゃ。
待ち時間だけでもこんなに緊張するなんて。
私のメンタルってこんなに弱かったっけ。
チラチラと歩道と腕時計を交互に見ては壁に頭をぴったりくっつけて空を見上げる。
「……大丈夫、分かってくれる」
カラ松なら。
あの時のままのカラ松なら。
「good morning、なまえ!」
「っお、おはようカラ松!」
ぼーっとしていたため、声をかけられた瞬間、びくっと肩を震わせてしまった。
カラ松を見れば、はてなマークを頭の上につけたような顔をしながら立っていた。
しばらく無言のまま見つめ合っていると、カラ松が何かをぼそりと呟いた。
小声のだったため、聞こえず、何か言った? と聞けば、カラ松は慌てて何でもない!と言う。
ふーと、と思い気にも留めなかった。
……きたんだ、ついに。
言わなきゃ、頑張れ私。
「かっカラ松!」
「っは、はい」
「……ちょっと、ついてきて」
「お、おう……?」
肩掛けバックをぎゅっと両手で握りしめて気持ちを落ち着かせ、私は疑問系の返事をしたカラ松の方を振り返りもせずに駅の方に向かった。
それにしても……。
カラ松の格好、なに!?
ビジュアル系バンドなの!?
黒の革ジャンに青い布地のタンクトップ。
気のせいだといいのだが、革ジャンで隠れているが、歩くたびにチラチラとカラ松の顔らしきものが見える。
嘘だ、自分の顔をプリントしたタンクトップ着てるとか。私は信じないぞ。
そんなイタいやつ存在するものか。
青いラメのパンツも陽の光が反射し、キラキラと輝いていて恥ずかしい。
ベルトのバックルはドクロだった。
うん、まぁそこは良いや。
て言うかサングラスって!
芸能人でもないのに!
今そんなに眩しくないでしょ!?
うう……なんか不安になってきた……。
せめてサングラスだけでも取ってほしい。
「あのさ、カラ松」
「ん? なんだ?」
「そのサングラス、外してくれない?」
「え?」
あー絶対何でって思われた!
絶対カラ松分かってないよ!
私は駅の改札を通った後のところで、大勢の人を掻き分けながらカラ松を引き止め、サングラスをじーっと見つめながら言った。
「ああ、分かったぞ」
「っ! よ、よかった!」
何だ、分かってるじゃん!
最初から付けてこないでよー。
「俺の顔が良く見えないんだな……」
「……ソウダネ」
前言撤回、全然分かってない。
サングラスを外してくれたのは良いが、何故よりにもよってタンクトップの襟ぐりのところにかけるのだろうか。ポケットで良いじゃん。
それに私がサングラスを外してほしい理由も的を外しているしで訳がわからない。
電車に乗り込むと、かなりの満員で、皆が皆ぎゅうぎゅう詰めにされたまま表情を歪め、苦しそうに乗車していた。
その輪の中に入るのは、さらに車内をぎゅうぎゅうにしてしまうので少々申し訳ないと思いながらも乗り込むと、やはり苦しい。
私達以外にも人が乗ってきて、真ん中側に追いやられそうになったが、誰かの手が私の手首を掴み、ドア側の方に引っ張ってくれた。
そのおかげで寄りかかる場所ができ、さっきの場所よりも気が楽になった。
ほっとして安堵の溜息を吐いた後、掴まれたままの手首を辿りその人の顔を見ると、見事にバチっと目が合った。
「大丈夫か?」
耳元でそうボソボソと囁かれ、そのくすぐったさに思わずびくりとするが、カラ松が引っ張ってくれたんだ……と心が和らいだ。
やっぱりあの頃みたいに優しいままのカラ松なのかもしれない。そう思えてくる。
電車のドアが閉まると、一気に密度が高くなった気がして、車内が暑く感じた。
足を置く場所が制限され、きゅっと身を縮めて壁にぴったり張り付く。
満員電車のためカラ松と身体がすごく密着するのは致し方ないのだが、やはり気になっている異性と密着するのは恥ずかしいわけで。
抱き締められているみたいに私の方に寄りかかってくるからなおさら恥ずかしい。
人混みが多い側に立ってもらっているので、密着するななんて文句は何も言えない。
その恥ずかしさに顔を赤らめていると、急に自分のところの空間だけがぽっかりと空いた気がして、瞑っていた目を開けた。
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