03
しばらく昔の話題に花を咲かせていると、話の方向は六つ子の話から引っ越し前の出来事へと移り変わっていった。
「あの時は本当に悲しかったよ……」
「俺も辛かった。だがそれはもうPastの事、今は俺たちのNowとFutureを信じようぜ」
「……カラ松ってさ、結構変わったよね」
いつも兄弟に言っているような口調で言えば、なまえは何故か苦笑いしながら「変わったね」と言う。
確かに小学生の頃は言っていなかった。
いつこんな性格になったんだろう。
それを思い出そうとしていると、なまえが「そう言えば」と言って話を切り出す。
「あの時の約束、あれ覚えてる?」
そう笑いながら言うなまえに、思わず力んで「覚えてる!」と大声になってしまった。
なまえは「あはは」と笑って「覚えてたかー」とカフェオレを飲んだ。
覚えてくれてた。
信じられないくらい心臓が煩い。
ああ、身体がすごく熱い。
まるで熱湯をかぶったようだ。
「『大人になったら結婚しようね』……あはは、あの時は小さかったもんねー」
「……え」
「……ん?」
それを笑っていうなまえに、俺は固まった。
なまえはあれを本気と受け止めていなかったということなのか?
いや、そんなはずがない。
なまえは俺を好きと言ってくれた。
その気持ちに嘘はなかったはずだ。
そう信じ、俺は猛アタックを開始した。
あの時くらい、いや、あの時以上の仲の良さを取り戻さなくては――。
「メアド教えてくれないか? あ、番号も」
「なまえはすごく綺麗になったな!」
「カラ松girlにピッタリだ……」
「カラ松ガール?」
とにかくアプローチをした。
なまえはやはり社会人らしく、仕事で毎日忙しいらしく、あまり話ができないらしい。
例えば、こう言う時間だとか。
なのでまずはいつでも連絡できるように、メアドと電話番号とLINEを交換した。
なまえのLINEのアイコンが薄茶色のコーギーの写真で、脳裏にあの頃、なまえか飼っていた犬と2人でじゃれ合っているのが浮かぶ。
そうか、元気なのか。
良かった……。
「なまえ」
「なに?」
「あの約束だが、俺は本気だ」
「っえ、えっと、んえ……?」
戸惑う様子のなまえ。
それはそうだ。
突然店の中で告白されて戸惑わない人間がいるとしたらその反応が見てみたいものだ。
じーっとなまえだけを見つめると、なまえは少し目を合わせていたが、顔を赤くして顔をそらす。そんなところもまたグッとくる。
「えーと、本気って……ほんと?」
「俺は本気だ。なまえは?」
「わっ私は……その、こどもの時の約束だったから半信半疑のままで……」
「そ、そうなのか……」
その言葉に一気に落ち込んだが、なまえだってこの事を忘れているわけではなかった。
もしかしたら脈アリなんじゃないか?
ここでなまえを逃してしまったら、俺は一生自分の幸せを掴めないかもしれない。
「なまえ、お前が好きだ。付き合ってほしい」
「っ……か、考え……させて?」
なまえが困った顔で首をかしげるものだから、その場で返事を聞こうと思っていた事もすっかり頭から飛び出して、俺はうんと頷いた。
後日返事を聞くために、また会うことになった。
日時は明後日のこの店。
なまえはその後、終始俺と目を合わせないまま――送ろうと言ったのだが、「大丈夫」の一点張り。
俺はなまえの後ろ姿をずっと見ていた。
明後日、やっと聞ける。
本当のなまえの気持ちが。
12年間も想っていた君の答えが。
――やっと。
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