小説 中編 | ナノ
01
「なまえちゃん!」

「なに? カラ松くん」

「僕、君が好きだ! 大きくなったら僕と結婚してくれませんか!」

「……私も好き! こんやく、だね!」


そう言って笑いあう少年少女。
ああ、この夢を見るのは懐かしい。

俺はまだ子供の頃、好きだった相手にプロポーズをし、見事その恋は実り両思いになった。
俺たちはその日婚約し、大人になったら結婚しようね! それがほとんど口癖だった。

あれから学校が終わると、毎日と言って良いほど2人で一緒に遊んだのがとても懐かしい。
そして、2か月が経った頃だろうか。
なまえの態度がよそよそしくなったのは。

その態度の変化の原因は、学校の帰りの会での連絡のさいに先生から伝えられた。


「皆には黙ってたけど、梅津さんが今月の下旬から転校してしまいます」


いつもおちゃらけたことばかりしか言わない先生の口からその言葉を聞き、思わず席を立ち上がったのを覚えている。
その時のなまえの驚き顔も。全部。

引っ越しの日が来ると、俺は家族ぐるみでなまえの家族と仲が良かったため、家族全員で見送りに行った。

なまえが車に乗った後、車の窓を開けて言った言葉を思い出すと、今でもにやけてしまう。


『大人になったら、結婚しようね!』


いつも言い合っていた口癖だったのに、その時の俺は全くもって子どもすぎて泣き崩れたっけ。それでおそ松兄さんに慰められて。
弟たちからも慰められて。情けない。



なまえが転校してからもう12年。
今はどこで何をしているのだろう。

俺は相も変わらず12年ずっと好きだった。
なまえは、どうなんだろう。
もしかしたら忘れてるかも。
もしかしたらもう彼氏がいるかも。
なんて可能性が俺の中で捨てきれなくて。


「カ……つ! カラ……! カラ松! おい!」


目を開ければいつもながら、緑色のパーカーを着た三男・チョロ松が俺の肩を掴み揺さぶり起こす。

「もう朝か?」と言うと、チョロ松は怒った顔で「4時だよ!」と赤い顔で言った。


「なんだ、今日の俺は偉く早起きだな……!」

「逆だバカ! "午後"4時だ、とっと起きろ!」


そう言い残し、一階に降りていくチョロ松。
その後ろ姿を見ながら、長い6人分の布団の上を1人でゴロゴロと転がった。


「……会いたい……なまえ」


多分、叶わないのだろうけど。
でも捨てたくない、その可能性。
俺はピンとはねて寝癖を手ぐしで適当にとかし撫でつけ、パジャマからパーカーへと着替えた。



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