小説 中編 | ナノ
11
周りがすごく静かだ。
皆シーンとして、聞こえるのは、自分自身の鳴り止まないくらいの胸の高鳴りだけ。

カラ松の顔にオレンジ色の夕日が照らされた頃、ようやくカラ松が口を開いた。


「……気持ちなんて、変わってない」


その言葉に思わず息を飲む。


「俺も、お前が好きだ。どうか、俺と付き合ってほしい」


そんなの答えは人に決まってるじゃないか。

もう私の声の震えは止まっていた。
なんてロマンチックなんだろう。


「よろしく、お願いします」


そう言った瞬間、先ほどのスタッフさんの明るい「おかえりなさーい!」と言う声が聞こえ、思わず口をつぐんだ。

どうやらもう着いたらしい。
気づかなかったなんて……。

私達はぽかんとしたまま顔を見合わせ、笑い合ってから観覧車の個室を降りた。

近くのベンチに腰を掛ける。
周りには数羽のスズメがチュンチュンと鳴き、地面を軽やかに歩いている。


「えっと……じゃあ、俺たちは、その、つまり……恋人同士で、良いんだよな」

「う、うん……そうだね」

「そっか……あ、あはは」

「あははは……」


恋人って、どんな事するんだろう。

手を繋いだり、デートしたり。
ああ、やっぱりキスは大事なのかな?

カラ松といずれかは、そう言う事をするなんて、今じゃ考えられないけど。


「……なまえ」

「っは、はい!?」

「俺たちは一度、子供の頃に婚約をしたな」

「……うん、したね」


なんだろう、改まって。

その声色の真剣さに、思わず背筋をピンとしたまま、固まってカラ松を見つめる。


「そ、その……大人になったら、結婚してくれないか?」

「……っぷ、あはは! 私達もう大人じゃん!」

「だから、その……そう言う事だ」


顔を真っ赤にして顔をそらすカラ松。
そう言う事って、そう事……だよね。

結局また振り出しに戻るみたいだ。

でも、子供の時より鮮明で、分かり合える。
『その時が来たら結婚しよう』。

今度はそれが口癖になりそうだ。

end.



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