小説 中編 | ナノ
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「私この馬乗る!」

「じゃあ俺はこの馬にしよう。ブルーの瞳がイケてるぜ……装飾も……」

『発車しまーす!』

「え」

「ほら早く乗って!」


メリーゴーランド。


「なまえっ、そ、そんなに回すな!」

「コーヒーカップは回してなんぼでしょ!」

「きっ気持ち悪い……」

「あはは、弱いぞカラ松ー」


コーヒーカップ。


「来る、来るよ……!」

「っや、やっぱ降りる! 降りさせてくれ!」

「今さら無理だって……あ、落ちる!」

「ぎゃああぁぁぁ!?」


ジェットコースター。


「カラ松ちゃんと運転してよ!」

「こ、こう見えても運転免許は持ってるんだが……! くっくそ……!」

「あー障害物! ぶつかる!」


二人乗りのゴーカート。

イチゴのクレープにバナナのクレープ。
お昼に食べたオムライス。

すごく楽しくて、私は最初から考えていたプランなんて忘れて純粋に楽しんでしまった。

カラ松も楽しんでくれたようだし、それはそれで良いのだが、最後はしめなければ。

待っててくれたんだから。
私もきちんとそれに応えなきゃ。


「カラ松!」

「あぁ、今度は何に乗るんだ?」

「……観覧車!」


私達なんかよりも、数倍も大きいピンク色の観覧車を指差して言った。

少しキザっぽいけれど、観覧車の中、できればてっぺんで言おうって決めてるんだ。

その方がおしゃれでしょう?
って言っても、友人のアドバイスなんだけど。
私ってば、すぐ鵜呑みにするからなー。


観覧車の麓まで着くと、辺りも暗く、空の色もオレンジ色になってきている時間帯なため、他の並んでいる客も多くはなかった。

私達はほとんどない列に並び、次に乗れる時間をぼーっとしながら待った。


「では、行ってっしゃーい!」


遊園地おなじみのその掛け声で、観覧車の個室のドアがガチャリと閉められる。

向かい合って座ったからか少し照れくさい。
散々泳がせた視線を窓の外に投げ、しばらく赤色からオレンジ色の綺麗なグラデーションを作る空をじーっと見つめていた。

言おう言おうとは決めていても、やはりすぐには決心はつかないことだ。

……覚悟決めなきゃ。
ずっと悩んだじゃないか。

窓の外を眺め「綺麗だなー」と呟くカラ松に、震える声で「ねぇ、カラ松」と声をかけた。


「ん? なんだ?」


うああ、汗かいてきた。
告白ってこんなに緊張するんだ。
小学生の頃はこんな気持ちなかったのに。大人になったからこその羞恥心もあるのだろう。


「あの、返事の、事なんだけど」


上ずった声でそう言えば、カラ松も、私がこれから何を言うか理解した様で、窓の外に投げかけていた視線を私に移した。


「あぁ」


ああ、すごく緊張する。
自分の思いを伝えるのって。
こんなに緊張するものだっけ。


「私、もちろんあの約束の通り、子供の時はカラ松の事好きだったよ。でも、私大人になってから、あれはただの子供の頃の約束としか思ってなくて、婚約だなんて、半信半疑だったの」


私が必死に紡いでいく言葉に、カラ松は無言で相槌だけを打つ。


「私は引越ししてから、カラ松以外の人を好きになった事ないし、恋人もできた事ないし……。だから付き合うっていう事自体が不安っていうか、私引っ越してからはずっと女子校だったんだ。そのせいでちょっと男の人に対して免疫なくて……」


こんなに長く話すつもりじゃないのに。
どんどん『あの言葉』を引き延ばすように、私は長い文でその隙間を埋めていく。

早く――早く言わなきゃ。


「カラ松に久しぶりに会った時、正直、すごく変わってて驚いた。性格だって、外見だって。だから私、前のカラ松とは変わったって決めつけてたんだ……全然、そんな事なかったのに……ああ、もう。ごめんね、話長くなって……」


浅い深呼吸をした。


「私も、好きです。カラ松が今でも気持ち変わってなかったら、付き合ってください」


とうとう言ってしまった。
顔から火が出るほど恥ずかしい。

穴があったら入りたいとはこの事か。

私達を乗せ、ゆらりゆらりとゆっくり動く観覧車もてっぺんを下っていく。

私は固まったままのカラ松を見つめた。



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