09
「good morning、なまえ!」
腕時計をチラチラ確認しながら急いで店の前に着くと、端の方の壁に寄りかかっているなまえの姿を見つけ、俺はなまえに駆け寄って言った。
なまえはぼーっとしていたのか、びくりと肩を震わせ「っお、おはようカラ松!」と返した。
しばらくなまえを見つめ、俺は思わずポロリと「可愛い……」と言葉を漏らした。
なまえは「何か言った?」と本当に聞こえていなさそうだったので良かったが、その後返した言葉が震えていたため、何か変に思われたら嫌だなと思いつつもじーっと見てしまう。
久しぶりの再会を果たした時のなまえのラフな服装とは違い、ズボンではなくスカートだった。
デニムのジャケットに青と白のボーダー柄のティーシャツ、スカートが少し短かったので、他の男の目が気になったが、なまえが俺のためにオシャレをしてきてくれたと考えるだけで気持ちがふわりと高まる。
ああ、男って単純だ。
いや……男じゃなくて、俺だからかもしれない。
なまえに言われるまま後をついて行き、駅の改札をくぐったところで足を止められた。
何かと思っていると「そのサングラス、外してくれない?」との一言。
思わず「え?」なんてマヌケな声が出た。
だがそれも少し考え、サングラスをしていると顔がよく見えないという事もあり、なまえは俺の顔を良く見たいのか……!
そう自己解釈しサングラスを外し、タンクトップの襟ぐりに引っ掛けた。
これは、脈ありなんじゃないか?
そんな期待が高まって仕方がない。
満員電車に乗り込むと、そのぎゅうぎゅう詰の空間に「うっ」と声を出しつつも、苦しそうな顔をするなまえの手首を引っ張ってドア側に寄せた。
「大丈夫か?」
耳元でそう囁けば、なまえは肩をびくりと震わせ、こくりと頷いた。
その姿が小動物のようで、俺は満員電車でもさすがにこんなに密着しないだろうと言うくらいなまえに抱きついた。
もしも、断られてしまったら。
もうこんな事も出来なくなってしまうだろう。
だから今だけ、せめて今だけ。
許してくれないだろうか。
しばらくして、苦しくないだろうかとなまえを見ると、なまえは顔を赤くしていた。
……さすがに、密着しすぎたか。
思わずなまえにつられて自身も赤くなる。
俺はなまえが苦しくないように、と周りの人には悪いがグイグイと追いやってなまえのところにスペースを作った。
目を丸くしたなまえと目が合い、反射的にニコリと微笑めば、なまえはすぐに逸らした。
ふっ、照れているのか。
可愛いやつだ……。
なまえから女の子特有のいい匂いがした。
石鹸みたいな、いい匂い。
あ、なんか……いや、何でもない。
なまえに連れてこられた場所は遊園地だった。
遊園地なんて何年ぶりだろう。
小学生の時に行ったっきりじゃないか?
その懐かしみに浸っていると、なまえは俺の手首を引っ張ってチケット売り場へと向かった。
貰ったパンフレットと睨めっこしているなまえはすごく可愛くて癒される。
彼女がいたらこんな感じなのだろうか。
……なってくれたら、どんなに嬉しいか。
なまえは分からないのだろう。
結局話し合った結果、ここから一番近いメリーゴーランドに乗ることになり、側まで行くと、その混雑具合がいかにすごいかが分かった。
「……混んでるな」
「休日だもんねー、ほら並ぶよ」
「あ、ああ」
最後尾に並ぶと、側に立っているスタッフさんは『ただいまの待ち時間:45分』と書かれた看板をかがけていた。
待ち時間中、気まずくて何も喋ることがなくずっと無言のままだった……なんて事はなく、昔の話題に花を咲かせたり、最近何があったとか兄弟は元気かとか話題はゴロゴロあった。
順番が来るのはすごくあっという間に思えて、もっと話したかったという気持ちが少し勝ってしまったのは、キラキラと目を輝かせているなまえを見て思ってきまったのは内緒だ。
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