小説 中編 | ナノ
08
「じゃあ行ってくるぜ、brothers……」

「ちょおっと待てカラ松うぅぅ!?」


珍しく早起きした俺は、なまえと会うために悩みに悩んで選んだ勝負服を着、玄関のドアを開けようとした時だった。

ちょうど外に出ようとしたところで、チョロ松が俺を引き止め、次の瞬間には兄弟全員が玄関にパジャマ姿のまま揃っていた。

見送りをしてくれるのかと思い「見送りありがとうな……」と微笑めば、何故かいつものごとく一松にアッパーをかまされ吹っ飛ぶ。

何が何だか分からないと言う顔をしたまま兄弟たちを見つめていると、トド松が一歩前に出て「まさかその格好で行くんじゃないよね!?」と言った。


「当たり前だろう。昨日悩みに悩んでやっと決めた服だからな……すまない、待ち合わせに遅れるからもう行くぜ」

「っちょっと待てええぇぇい!!」

「ぶっ!?」


何故今度は末弟に馬乗りにされたまま襟ぐりを掴まれ振り回されているのだろうか。

あ、兄としての威厳が……。


「と、トッティ? どうしたんだ?」

「トッティって言うなボケ! いやだから、てっきり僕らはいつものあのイタライダースで行くと思ってたんだよ!」


トド松の言葉に続けて、兄弟全員が「うんうん」と頷く。


「それが何!?」

「え?」

「その格好! 白いスーツって! 結婚式じゃないんだからさぁ!? しかも前髪が伸びオールバック!? 洗面所占領してると思ったら何してんの!? ほんっとイッタいよねー!」

「……えぇ……」


そんな事言われても。
このコーディネートは頑張って選んだ自信作だったんだが……そんなに変だろうか。

もしやスーツの胸ポケットに一輪の赤いバラを刺したのは少しキザだったかな……。


「いやそれ全部キザだからね!?」

「お前の頭どーなってんだコラぁ!」

「その格好で行くなんてお兄ちゃん許さねぇからな! なまえに気持ち悪がられても知らねーぞ!?」


おそ松兄さんのその言葉固まった。

なまえに、気持ち悪がられる?
この格好はそんなにも気持ち悪いのだろうか。
前髪だって、頑張って時間をかけてやっと綺麗なオールバックに出来たというのに。


「こ、この格好変なのか……?」

「どう見たって変でしょ」

「結婚式行くみてー!!」


グサリグサリと槍が刺さる勢いで罵倒される。
そんなに言わなくても……。


「良いか? 普段通りのお前の方が、絶対に良い! 変に飾ったお前なんて、なまえは見たくねぇはずだ!」

「っそ、そうだな! ごめん、おそ松兄さん。皆、俺はどうかしてた……着替えてくる」


言われて気づいたぜ、皆。

そうだ、変に飾らなくて良い。
普段の俺を見てくれればそれで良いんだ。
なまえ、待って行ってくれ。



「行ってくる!」

「待ってえぇぇ!?」
「ええぇぇ!? どうしてそうなった!?」
「ないわー……」
「わかってないな兄さん!!」
「いや、マシになったけど! マシにはなったけど、イタい通り越してサイコパスだよー!」


……何故、また罵倒を。
普段の俺で良いって言ってくれたじゃないか。
何でそう言った張本人のおそ松兄さんが悪く言うんだ? 普段の俺の格好じゃないか……!


「も、もう良い! 本当に遅れてしまう、俺はもう行くからな! 止めるな兄弟たちよ!」

「あっ待てええ!!」
「その格好で行くなああ!」


走り出した後には、もう兄弟たちの必死の叫びは、俺には聞こえていなかった。
すまん、皆。帰ってから聞くぜ。

なまえが、待ってるからな。



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