01
2ヶ月前くらいから、いつも最低でも週3回は来るほどの常連さんがいる。
とは言っても、私の職場はハローワーク。
つまりその常連さんは、所謂ニートなのだ。
彼が来ると、必ずと言って良いほど私が彼の担当させられる。何故かはわからないが、同僚たちがニヤニヤしながら私を送り出すの見ていると、だいたい察しもついてくる。
まいったなーと思いつつも「なまえちゃん、あの子きたよーお願ーい」と同僚に言われ、飲んでいたペットボトルの蓋を閉め、私は首に下げた職員カードを直し、表に出た。
上下ともに水色のスーツ。
跳ねた毛もない綺麗な髪。
困り顔みたいな下がり眉に若干への字の口。
松野チョロ松さん。
今週で2回目ですね。
気持ちを入れ替え、私は椅子に座っているチョロ松さんの真正面の席に座った。
「こんにちは、松野さん」
「こっこんにちは!」
もう十何回くらい、結構な頻度で会っているのに、何で未だにこんなに緊張されるかが分からない。
それにいつもほんのりと頬が赤い。
そういう体質なのかなー。
なんて思っていたけど、私は同僚からの情報提供で、松野さんの気持ちを知ってしまっているのだ。
……松野さんが、私を好きなことを。
最初はものすごくびっくりした。
ハローワークの従業員をやっていて、今までその相談相手の人に惚れられるなんて、例外にもほどがあるくらいなかったのだから。
「今週で2回目ですね!」
「あ、あはは……僕、もう二十代前半だし、いよいよ本格的にダメなんでしょうかね……」
なんて弱気になる松野さん。
その発言の後に、松野さんは持っていた履歴書を机の上に置いた。いつもの下がり眉が一層下がっている。
なんだかよく分からないけど、その姿になんだかキュンとして、なんだかよく分からないまま松野さんの手を取り「一緒に根気よく頑張っていきましょう!」なんて言ってしまった。
案の定、松野さんの顔は真っ赤だ。
握られた両手と私の顔を交互に、口をパクパクとさせながら赤い顔で見ている。
何が何だか分からないという様子だ。
うん、私も何でこの行動したのか謎。
「あ、あのっ……手……」
「えっあー、すいません! 何でだか握ってしまって。それでは履歴書拝見しますね」
「はっはい」
握っていたままの手をパッと離し、私は机に置かれた履歴書を手に取りじっと見る。
いつもながら、松野さんの字は綺麗だ。
今時履歴書をパソコンで書いて済ませる人も多いが、それでは企業からしたら「履歴書を書くのさえもめんどくさい」と思っている人にしか思えないのだ。
字が綺麗なのに越したことはないし、松野さんの字の綺麗さを見ていると、女の私よりも上手いんじゃないかと思えてくるほどに。
「やっぱり字、お綺麗ですね」
「ありがとうごさいます! なんども練習したので……字が綺麗になってからは最終選考まで残ったりもしたんですが、やっぱりダメで……」
笑顔になったかと思えば、また暗い顔。
相変わらず忙しい表情の人だ。
そう思いながら達筆で書かれた綺麗な履歴書を机の上に戻し、私は伏目がちに言った。
「担当者の私にも責任はあるので、そんな事おっしゃらないでください。長い人は1年ほど通っている方もいらっしゃいますから」
「……はい、頑張ります!」
「その意気ですよ! さて、次は色々調べてきたのですが、まずはこの資料を――」
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