小説 短編 | ナノ
01
「寝られないなら子守唄歌おうか?」


普段、私の彼氏である松野カラ松が、私が「寝れないー」と呟いた際に良く言う口癖だ。

私は照れ臭いし、彼氏の歌声を聴きながら寝るなんて、なんだか気恥ずかしくて、いつも「大丈夫だよー」と言って断ってきたが、今日は何故かいつもよりも粘ってきた。


「子守唄歌うぞ?」

「大丈夫だって〜」

「遠慮するな……」

「いや、ほんと大丈夫だから」

「照れてるのか……?」


正直、照れているがそういうことではない。
何故こんなに押してくるかが分からない。

カラ松って歌うの好きだっけ?
でもカラオケは行かないし……。

うーんと唸りながら悩んでいるうちに、カラ松の子守唄を聞きもしないうちに眠りについた。


「なまえ! 酷いじゃないか!」


翌日の朝早く。
開口一番彼氏から言われた言葉はそれだった。

何が酷いのかと思いながら、正座をして私をじっと見つめているカラ松を見ながら、なかなか開けられないしょぼしょぼした目をこする。


「なに、私なんかした?」

「……歌!」

「あー、あはは。ごめんごめん」


そうだった。子守唄。
すっかり忘れてたなー。

曖昧なままで寝たのも悪かったと思いつつも、昨日はやけに寝つきが良かったのだ。
それを言われてもしょうがない。


「……なまえ、話があるんだ」

「ん? なに? 大事なことじゃなかったら一回お茶飲んできていいー?」

「大事なことだ」

「……そっか」


やけに真剣な目だ。
その表情に、私もつられて真剣になる。

ピンと跳ねた毛先をぐりぐりと弄りながら、カラ松が話を切り出すのを待つ。

暫くして、ようやく口を開いた。
と、思ったらそれは大いに予想外な事だった。


「お、お母さんに会ってくれ!?」

「そうなんだ……俺たちもそろそろ、その……頃合いだろう? 挨拶はしておくべきだなと」

「いや、うん、そうなんだけどね? 急すぎないかな? ……えっと、それはいつ?」


突然の話題に視界を白黒させつつも、冷静になって事の成り行きを見守ったほうがいいだろう。

せめて一週間の猶予は欲しい。


「明日とかどうだ?」

「っ待て! 明日ぁ!?」

「ああ、明日だ!」


いや、そんな純粋そうな目で見られても。
明日って……何の用意も出来てないよ!?

手土産の菓子折りなんかも買ってない。
行く用の服も思いつかない。
挨拶の仕方も考えていない。

……どうしろと。


「せ、せめてさ。明後日とかにならない?」

「う……そうか。分かった、明後日だな! 母さんに話をつけてくる。電話借りるぞ!」

「へ? 分かった……」


って電話! いきなりどこの誰かも分からない電話番号からかかってきて出るのか……?

そう思いながら、ルンルンとした雰囲気で出て行ったカラ松の後を追うと、受話器を取り、今はコールをしている最中のようだ。

さ、さすがに出ないでしょ。
無用心だし。


「ああ、マミーか? 俺だ、俺俺、カラ松だ」


出るんかい!!

しかもマミー!?
カラ松って普段、お母さんの事マミーって呼んでるの!? 外国か! ここは日本だ!

しかも何か言い方が俺俺詐欺っぽいよ!
誤解されそうだなぁ。


『あら? そこにいるのカラ松? いないと思ったら……友達の家かしら?』


っなんでスピーカー!?
こっちにも聞こえてくるよ!
直して直して! 気づいてないんかい!

やばいぞ、ツッコミが追いつかない。


「今はMy honeyの家にいるんだ」


ハニーって言っちゃった!
うわ、お母さん無言!
気まずいってー……!

と言うか何でそんなに発音良いの?
謎なんだけど……。
ツッコミどころが多すぎて。

……なんか、私の知らないカラ松もいて、お母さんに嫉妬してしまいそうだ。
私、バカすぎだなぁ。



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