小説 短編 | ナノ
01
「なまえちゃんはさ」

「んー?」

「僕が本当に本気って思ってる?」

「……さぁねぇー」

「いっつもそれだよね!? もう……」


漫画を読んでいる最中のなまえちゃんに、後ろからぎゅっと抱き着いてそう質問してみれば、帰ってくる答えはいつも同じ。

なまえちゃんは分かりやすく僕から目を逸らして、漫画へと視線を向ける。

その顔はいつも赤い。
うーん、やっぱり可愛い。

「なまえちゃんってほんっと可愛い〜」なんて言ってみても「トド松くんのが可愛いよ〜」と、冗談でしょとばかりに笑い飛ばされる。

そこがいつも気に入らないところ。
僕は本当に、心の底から本気なのに。
なまえちゃんは冗談だと思っている。

……気づいてもらえないって辛いよねー。


「ねぇ、何読んでるの?」

「んーとね、少女漫画」

「少女漫画かぁー僕はそんなに読まないや」

「男だもんね、トッティは!」

「トッティ言うな!」


トッティトッティを連呼してあははと笑うなまえちゃんの笑顔にイラつきもすぐに消える。

なまえちゃんが家に呼んでくれる。
なまえちゃんとたくさん連絡も取ってる。
なまえちゃんと多分、異性の中で一番僕が仲が良い……そう思っている。

なのに、付き合っていない。
告白も考えたけど、やはり今こうやって楽しく笑いあえる関係が潰れてしまうかもと考えるだけで告白する勇気なんて消え失せてしまう。

心の中でため息を吐いた。
後ろからなまえちゃんが読んでいる少女漫画の内容を、最近の少女漫画ってどんな感じなんだろう――それぐらいの気持ちで覗き込む。


「おー、キスしてる」


漫画の中では、大きくキラキラした目の可愛い女の子と細く身長の高い所謂イケメンがキスをしているキスシーンの最中だった。


「っわ! み、見るな!」


キスしてるシーンだったからキスしてる。
そう言っただけなのに、なまえちゃんは僕の方を振り向いて顔を赤くして漫画を閉じた。


「よく言うよねー、僕が居るのに、そのまん前で漫画読んでるからじゃん」

「呼んでないのに来てるんでしょ!?」

「まぁね」


こうでもしないと、なまえちゃんとの繋がりなんてすぐに消えてしまいそうだから。

それにしても、"少女"漫画なのにあんなキスシーン掲載しちゃうんだな。
もう少年誌レベルじゃん。

そう思いながら僕はなまえちゃんが閉じた漫画をひったくるように取ってペラペラと数ページを流し読みをした。


「うわ、なにこの恥ずかしいセリフ」

「いったたたた。良く言えるねこんなセリフ」

「モブの女の子性格悪くない?」


立て続けにその少女漫画の感想をズバズバと言っていると、なまえちゃんがしびれを切らして僕が読んでいる最中にもかかわらず、バッと取り上げた。

その方向を視線で追うと、むっとしたような表情でいるなまえちゃんが立っている。


「ごめんって」

「男にはわからなくていいの! 女の子にとっては、こう言うのがドキドキするんだから!」


そう言って少女漫画がいかに素晴らしいかについて語り始めたなまえちゃんの話を聞き流しながら「ふーん」「へー」と適当に相槌を打つ。


「て言うかさ、壁ドンってそんなにドキドキするものなの? 逆に怖くない?」

「そんな事ないって! 絶対ドキドキ!」

「やられた事は?」


そう質問すれば、帰ってきた答えは予想していた通りの「ない!」の一言。

まぁ、安心したけどね。
だってなまえちゃんが僕以外の男に壁ドンなんてされてるって知ったらやばいもん。

多分嫉妬でおかしくなる。
……それくらい好きなのにね。
もう、ほんっと鈍感。



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