小説 短編 | ナノ
01
「小麦粉は95gだからね! あー、5g多い。ちょっとスプーンですくって……あ! ちょっと食べちゃダメ!」

「げほっ、げほぉっ、け、煙い〜」

「ほーら言わんこっちゃない!」


そう言って、けほけほと口から白い煙を出しながらむせている十四松くんの背中を叩く。

十四松くんは笑って「お菓子作りはむっけぇね〜」なんて方言を使って言ってみせる。

その笑顔が私には愛おしくてたまらない。
本当に成人男性なのか疑わしいくらいだ。

そんな元気な――いや、狂人とも言えるほどの性格であろう十四松くんが、何故私にケーキの作り方を教えてくれ、なんて。
一体どう言う風の吹き回しなのだろう。

理由を聞いてみれば、十四松くんは焦った様子で焦点の合っていない目を泳がせて「自分で食べたいから!」なんて言ったが、きっと嘘だ。

まぁ、そこまで深追いはしないが。
気になるものは気になるよなー。

水を口に流し込んでいる十四松くんの横顔をチラリと見てからレシピ本の4項目を見る。


「十四松くん、大丈夫?」

「うん、もう平気〜」

「気をつけてね。小麦粉は甘くないんだから、ほら次だよ、小麦粉をふるいにかけるの」


「ふるい?」とコテンと首をかしげて頭にハテナマークを浮かべる十四松くん。
その姿に思わずきゅんとする。

あーもう、反則!
しかも、十四松くんはそれを計算でやっていないのだから、尚更私にとってはタチが悪い。


「この皿みたいな入れ物に計った小麦粉を入れて、トントン叩くと細かいのだけが落ちるから、もっと美味しくなるんだよ」

「へーすっげー! なまえちゃんやっぱ物知りだよね!!」

「いや……照れるって……」


十四松くんはすぐに私を褒めてくれる。
きっと彼にとって、純粋に、本当に褒めているんだろうけど私はそれを素直に受け取れない。
捻くれてるなー、と自分でも思う。



「やったー! 完成だー!!」

「あはは、最後にデコレーションしてからね。できたらすぐ食べるでしょ?」

「うん!!」


目の前でオレンジ色の光に包まれながら焼かれていくスポンジをキラキラとした目で食い入るようにずーっと見つめている十四松くん。

後25分くらいかかるのに。
ずっと見ている気なのかな。
なんて思ってしまうくらいに魅入っている。


「十四松くん」

「なに?」

「美味しくできるといいね」

「うん!!」


ああ、やっぱ可愛い。

子供みたいにあどけない表情でスポンジだけの一点を見つめている十四松くんの顔を、私はその後ろで見つめる。


スポンジの焼けた良い香りが部屋に充満してきた頃、十四松くんは立ち上がって「もう焼けたよね!? とっていい!?」と私に言ってきた。

私がその必死さに少し笑いながら「いいよ」と言えば、十四松くんは「やった!」とガッツポーズをしてそーっとオーブンを開けた。


「あっち!」

「あーミトン付けなきゃダメでしょ! なんで素手で触ろうと思ったの〜!」

「だって早く見たかったんだもーん」

「だもんって……ほら、これ付けて」


男の子には少々恥ずかしいであろう、ピンクと黄色のチェック柄のミトンを両手にはめてあげれば、十四松くんはにっこりとして「トッティと俺の色だ!」とそのミトンをはめた両手を上に掲げる。


「ふふ、確かに」

「この鉄板持っていいの!?」

「うん、気をつけてね。落としたら大変だから! ここのテーブルに置いて」

「はーい!」


そう素直に返事をする十四松くんは、やはり成人をした男性には見えなくて、自然と顔がほころんでしまう。


「うおー! うまそー!!」


相変わらずキラキラとした表情のままの十四松くんに「だね!」と返事をしてから竹串でスポンジにプスリと刺して生焼けかどうか確認してから「クリーム塗ろっか」と十四松くんの肩を叩いた。


「これ全部塗るの?」

「上に絞るやつも残しておかなきゃいけないから、半分くらいだね。ほら、こんな感じに……っと」

「おー! 俺もやりたいやりたい!!」

「はいはい」


ヘラをマジマジと見つめてからクリームをスポンジにひたすら塗りたくっている十四松くん。

うーん、弟がいたらこんな感じなのかな。
そう思ってしまうくらいに癒される。



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