小説 短編 | ナノ
01
「フォア・カード!」

「勝ったあぁ!ストレート・フラッシュ!!」

「っだああぁぁ! まった負けた!」


そう言ってテーブルの上のトランプをパーカーの裾で全て下に落とし、テーブルに突っ伏したまま愚痴を言い続けるおそ松くん。

下に落ちたバラバラになったトランプを、溜め息を吐きながら集めて箱に戻す。


「おそ松くん、ほんと弱いよねー」

「お前が強いんだよ! あーくっそ!」

「兄弟にも舐められてるもんね」

「それを言うなそれを! 思い出すだけで腹立つぞ、あいつらときたら俺の恩を……!」

「あーはいはい」


いつものおそ松くんの長男ならではの愚痴を聞き流しながらトランプの束を投げたりして遊ぶ。

こう言うおそ松くんの面倒臭い愚痴は、聞き流すのが一番良いと私は思っている。
相槌を打つのも面倒で嫌だし、かと言って「おそ松くんが悪いよ」なんて言えば、たちまち機嫌を悪くする。

……ほんと、絵に描いたような気分屋だ。


「と言うかさ、皆どこ行ってんの?」

「ん? カラ松は逆ナン待ち、チョロ松はライブ、一松は猫んところ、十四松は野球、トド松は女の子と遊んでるよ」


あー、皆いつものところか。
そう思えるくらいに彼らは働かずに、遊びに行っている。おそ松くんも例外ではない。

おそ松くん曰く「チョロ松は就活アピールがただでさえうざいのに、どーせ就職しないからうざい」なんて、理不尽な愚痴を悶々と聞かされ続けた時はさすがにチョロ松くんを呪った。


「皆やる事あるのに、おそ松くんにないの?」

テーブルに膝をつきながら言う。
おそ松くんは相変わらずテーブルに突っ伏したままで、口の端を歪めて言った。


「俺は今こーやってお前とポーカーしてるだけで暇つぶしになるんですぅー」

「あー! 暇つぶしとか言った! 私との時間を暇つぶしってお前! 遊んでやらないぞ!?」

「やだね! お前は俺と遊ばなきゃならんのだ! ただでさえ、皆遊んでくれないんだぜ!?」

「……遊んでって言えば?」

「言ってるのに遊んでくれないの!」


あ、またおそ松くんの愚痴タイムが。
……この質問、地雷だったの忘れてた。

止まらない次々の愚痴を「あーはいはい」「そうだねー確かに〜」なんて適当に、何時ものように流していると、突然愚痴が止んだかと思えば、その次の瞬間には私の手首が掴まれていた。

バッと掴まれた手首から視線を上に移動させると、なにやら真剣な顔のおそ松くん。

こんな真剣な顔見たことなくて、思わずだらけていた背筋を真っ直ぐにした。

見つめられること数十秒。
そろそろ笑いがこみ上げてきた。
なんか見られると笑っちゃうんだよね。
てもここで笑ったらヤバそうだ。

なんとか耐えて、ようやく手首を離してもらった思ったら、次は何故かおそ松くんが馬乗りになって私の上に乗っていた。


「……ちょっと、おそ松くん」

「なに」

「いや、なにじゃなくて。どいてくんない?」

「やだ」

「やだってお前……」


子供か、お前は子供か。
本当に小学6年生から精神変わってないな。
そんなんだから子供っぽいんだけど。

それにしてもこの体制はなんとかして欲しい。

私の上に馬乗りになるおそ松くん。
ここだけ見ると完全にアレじゃないか。
なんて、はは、私の脳内ピンクだな。


「おそ松くん、ほんとどいて?」

「やだね! だってなまえ、さっきからずーっと俺の話聞いてないだろ? だから、お仕置き!」

「……お仕置き?」


なんじゃそりゃ。
思わずポカーンとした。



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