01
やばい。
何がやばいって、もうやばい。
とにもかくにも、僕は現在やばいとしか言えない程の状況下に置かれていた。
規則正しい寝息を立て、時々もぞりと寝返りを打つ隣で寝ている女の子。
彼女ではないが、友達と言う間柄で繋がっている僕となまえちゃん。
そんな女の子が今現在、僕の横で寝ている。
一緒に家で飲んでいたのだが、なまえちゃんはお酒が弱いらしく、すぐに酔いつぶれた。
あまりにも頭をカクンカクンと危なっかしそうに眠たげになっているため、僕は心の中で「ごめんなさいなまえちゃん!」と思いながらも「ありがとう神様」なんて下心も含みながらなまえちゃんを抱き上げて二階に上がり布団に寝かせたわけだが。
普段、兄弟から「童貞くさい!」「これだから童貞は!」と言う謎の童貞ラッシュを連呼されているが、それも仕方ないと思える状況下だ。
目の前で無防備に寝る女の子。
彼女でもない、ただの友達。
でも凄く可愛くて、僕にも優しい。
嫌いになる要素なんてないなまえちゃん。
なまえちゃんが寝言を言ったり、寝返りを打つたびに心臓がドクンドクンと脈を打つ。
どうしようもないくらにドキドキする。
これでは「童貞こじらせてる」と言われても、反論なんか出来ないな。
そう思いながらなまえちゃんを凝視する。
「……寝てる、よな」
何も考えずに発したその言葉に思わず両手で口を覆い、ハッとしてなまえちゃんを見た。
起きる気配なんてない、寝たままだ。
……僕、何しようとしたんだ。
はぁ、いくら童貞こじらせてるからって、寝ている女の子に何かしようと思うなんて最低だ。
これ以上ここにいたら、もうどうしようもなくなってしまいそうになり、立ち上がってふすまを開け、一階に降りようとした時だった。
「チョロ松くん……んー、また……?」
ビクッとして思わず振り返る。
起きていない、寝たままだ。
「ね、寝言か……」
ほっと胸をなでおろしたは良いが、今度はその寝言の続きが気になって降りれない。
ふすまに寄りかかって座る。
暗い部屋に廊下の光が入ってきそうになり、すぐにハッとしてふすまを閉めた。
「……あー……にゃーちゃんだぁ……」
「に、にゃーちゃん!? っと、あぶな」
一体なんの夢を見てるんだろう。
にゃーちゃんが出てきて、僕も出てくる。
……想像ができなくて、ますます気になって僕は一階に戻る気をなくした。
できるだけなまえちゃんは見ないように、なまえちゃんに背を向けて座る。
でないと、もしもの時に、自分に歯止めが効かなくなりそうだからだ。
だって女の子特有の良い香りがすごい。
香水ではなく、ふんわりとした良い匂い。
……あー、やばい。やばいぞ。
「チョロ松くん……」
「っ! び、びっくりするな……」
寝言だとは言え、名前を呼ばれるのはドキっとする。その証拠に、今なまえちゃんの夢の中では僕が出てきているのだろう。
そう考えただけで、まさかと思えてしまうほどに僕は本当にチョロい人間だ。
「へへ……私もすきぃー……うーん……」
やばい、やばい心臓がやばい。
と言うか僕の僕もやばい。
一体なまえちゃんは何の夢を見てるんだ。
気になって仕方がない。
好きって、僕のこと?
それともにゃーちゃんのこと?
……ああ、弄ばれるってこういう事かも。
「……おやすみ」
せめてこれぐらいは許してほしい。
そう念じながら頭を撫でた。
柔らかい髪質がくすぐったく感じる。
女の子の頭を撫でるってこんな感じなんだ。
……初めてだ、頭撫でるって。女の子の。
ふんわりとした気分に浸っていると、玄関のドアが物凄い音を立てて開いた音がした。
「ただいマーッスルマッスル!!」
「……十四松か、はぁ……」
なまえちゃんがいる事言わなきゃな。
名残惜しげにまたなまえちゃんの頭を撫でて、一階へと駆け下りて行った。
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