01
「ねぇねぇ、どうだった?」
「私大吉!」
「私は凶だったー」
なんてあちらこちらから聞こえてくる。
今日は記念すべき新年を迎える日。
私と一松くんは初詣に来ていた。
一松くんは「初詣なんか行かない、家でゴロゴロしてる方が絶対に良い」と言って聞かないけれど、何とか説得して家から連れ出すことに成功したのだ。
周りを見れば、女の子は華やかな着物。
男の人は普段着だったり紋付袴を着ていたり。
私も例外ではなく、親が「どうしても着ていけ!」と般若面で押し付けてきた紫色の着物を着ている。
一松くんカラーで嬉しいなー。
なんて思ってしまったり。
そして一松くんはと言うと、特別元日だからと言って紋付袴を着ているわけではない。
いつもの普段着……よりもオシャレだ。
とは言っても一松くんの普段着は、ほとんどスウェットやジャージなので、ちょっとオシャレしただけでも見違えるくらい。
一松くん曰く、末弟のトド松くんにこの服を着ていけと押し付けられたらしい。
トド松くんセンスいいもんなぁ。
「ほら、おみくじ引くんでしょ」
「うん、引く!」
「行くよ」
「あっ待って!」
周りを見なくとも視界に入る人だかり。
足元に視線を移しても他の人の何人もの足が見えるほどの混雑だ。
一松くんは私の前を歩き「だから嫌だったんだ……」なんてブツブツ言っている。
人混み嫌いだもんね。
なんて一松くんの嫌いな事を知っている私は、この状況が一松くんにとってどれほど嫌かが分かった。
それでも来てくれるなんて、やっぱ優しい!
あはは、自慢の彼氏だもんな。
なんて自慢できる相手いないけど。
舞い上がっていると、目の前にいたはずの一松くんの後ろ姿を見失っていた。
「いっ一松くん? 一松くん?」
私は頭が真っ白になった。
ああ、はぐれた。
もう迷惑かけちゃった。
どうしよう、私、迷子だ。
「っすいません、なまえ、なまえ!」
「いっ一松くん! はぐれてごめんね!!」
「良いから……ほら」
そう言って差し出されたのは手のひら。
どういう事かと少し立ち止まって戸惑っていると、一松くんは手を握って歩き出した。
「はぐれないように、手」
「あ、あああありがとう!」
握られた手のひらが熱い。
顔も熱い。
身体も熱い。
手を握られる事は初めてではないのだが、こう言うシチュエーションでされるとこう、照れると言うかなんと言うか……な感じだ。
思わず照れてしまい、下を俯く。
一松くんは私の手を引っ張り、おみくじを売っているところにまで私を連れて来てくれた。
私が「ありがとう」と笑顔で言えば、一松くんはビックリしたように目を丸くしてから「別に……」とそっぽを向いた。
そんな仕草も愛らしい。
ああ、重症かもしれない。
「おみくじ一回100円でーす!」
「あっちだ!」
「はいはい」
長蛇の列に並び、数分間。
一松くんは隣でずっとイライラしていたようだ。……ご、ごめんね。
ようやく私たちの番が来て、おみくじを一人一枚だけ引いた。
一松くんは迷いもなくスッと取ったが、私は悩んでしまい、おみくじの中で手を彷徨わせた。
「よし! これにする!」
「早くしてよね……」
列から避け、人のいない傍に移動する。
「せーので開けようね!」
「うん」
「じゃあ、せーの!」
そう言って2人でおみくじを開ける。
書かれた文字は『中吉』。
結構良い結果にほっと胸を撫で下ろす。
願事は『悩み事打ち忘れて近づく運を待て』。
恋愛運が……『この人となら幸福あり』。
この人とならって、一松くんの事……だよね。
その結果に心臓が鳴り止まなくなった。
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