01
「なまえちゃんおっはよー!!」
「……お、おはよう、十四松くん。えっと……なんでびしょ濡れなわけ?」
「川泳いできた!!」
「そうなの……」
私の目の前に立つ、服がびしょ濡れの男の子。
いや、男の子とは言えない年なのだけれど、私は子供っぽい仕草の彼を見れば見るほど男の子としか見れないのだ。
パーカーの余った袖から、川の水らしき水滴がポタポタと床に落ちては跳ねる。
髪も濡れており、あー髪までつかったんだな。
と言うことが良く分かる。
「で、何か用なの?」
「なまえちゃんに会いたかったからきた!!」
「……まぁ、入って」
「おじゃましまーす!!」
なんて、素直で直球でストレート。
世の中の男の人がこれだけストレートに気持ちを伝えてくれたら、世の中の女の子たちはどれだけ助かることやら。
そんなに直球に言われたら赤くもなるわけで。
私は頬を少し赤色に染めたままドアを大きく開け固定すると、十四松くんは笑顔で袖を大きく振りながら玄関に入る。
ポタポタポタポタ。
床に滴り落ちる水、水、水。
し、しまった、忘れてた……!
「十四松くんちょっとストップ! 待ってて、今タオル持ってくるから、まだストップだよ!」
「オッケー!!」
その素直な返事を聞いてから、私は脱衣所へとダッシュで向かい、棚からバスタオルを出して2枚抱えて玄関に戻った。
十四松くんは私が言った通り、その場でストップしていてくれていたようだ。
ただ袖が揺れて私の靴に水が入ってるけど。
……十四松くんだから許そう!
うん、おそ松くんとか、カラ松くんあたりがもしもやったら許さないけど。
「おまたせー、はい、これで服とか髪拭いて」
「ありがとー!!」
私の手からバスタオルを一枚取り、そのタオルを服に巻きつけ、まるでポンチョのようにして服が吸った水分を取り除いているようだった。
……可愛い。
やっぱ、男の子だよなぁ。
なんか男性とは言えない感じ。
まぁ、そこが良いんだけど。
私はぶっちゃけ、十四松くんの事が好きだ。
でも十四松は別に私の事を好き、なんて素振りもないし、ただの女友達にしか見られていなのだろう……はぁ。
だから、突然部屋に押しかけるとか。
そういう事が出来るんだろうな。
そこまで考えて悲しくなり、水に濡れてペタンとしなっている十四松くんの髪の毛をもう1枚のバスタオルで拭き、気分を紛らわせる。
「うおー! なまえちゃんお母さんみたい!!」
「私が? あはは、十四松くんってば。髪拭いてるだけじゃん! ほら、もう上がって良いよ。あ、スリッパは脱いでね」
「いえーい! なまえちゃんの家!!」
……今のは家といえーいをかけたんだろうか。
いや、何考えてるんだろ私。
思考回路がおかしくなってきてる。
十四松くんにお母さんみたい、と言われるなんて、それはもはや私にとって「恋人はありえないけど、母親みたいな関係」としか捉えられないのだ。
もっとポジティブになれればな。
……十四松くんみたいに。
いつも明るく元気で笑顔で。
私には多分、無理だな。
「十四松くん、普通の麦茶とオレンジジュースとコーラ。どれがいい?」
「オレンジジュース!!」
「オッケー」
言うと思った。
なんて予想内の答えに1人微笑む。
十四松くんといる時間が、何より私にとって幸せなんだよなあ……。
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