小説 短編 | ナノ
01
「一松くん、何頼む?」

「……焼酎」

「オッケー、じゃあ私は梅サワーで」

「かしこまりました!」


いつも無愛想な一松くん。

私と一松くんは高校生以来の友達で、良くこうして居酒屋に来ては飲んでいる。

普段は無口でネガティブな一松くんだけど、お酒が入るとへにゃへにゃーとして素直になる。

その時だけは本音で話せるけど、それ以外はめっきりなわけで……。

一松くんは意外にもお酒に弱く、結構早めに酔いが回るが、私は皆に意外と言われるが、強い方ではあるので、少なくとも一松くんよりは強いと思われる。

それから少しして、一松くんの顔色がほんのり赤みを帯びた色付きになっていたのに気づく。

はっや、なんて思いながら追加で頼んだ柚子サワーをちびちびと飲みながら、テーブルに突っ伏す一松くんを見た。


「もう酔ったの? 相変わらず早いよね」

「うるさい……」

「ごめんごめん」


むくりと起き上がったかと思えば、半分残っていた焼酎を一気飲みする一松くん。

一気飲みは体に悪いから止めなって、いつも言ってるのにすぐ忘れるんだから……。
なんて短い溜め息を吐く。


「すいません、塩辛と生1つ」

「かしこまりました〜!」


メニュー表を置き、何センチかほど残ったサワーを飲み尽くし、ジョッキをゴトリと置いた。


「……ほんとなまえっておっさんくさい」

「あーうるさいうるさいー、別におっさんでも良いよーだ、だって好きなんだもん」

「……ふーん」


少しして塩辛が来ると、私が箸で取ろうとした瞬間に目の前から手が伸びてきて、その塩辛を皿まるごと掴み取り、中身を口に流し込んだ。


「いっ一松くん……!」

「あーうまい」

「一松くんだっておっさんくさいじゃん! それ私が頼んだ奴なのに! もう、すいません店員さーん!」


食べ物の取り合いもしばしば。

こんな事、酔っていなければ一松くんは絶対にしない、と言うかしてくれない。

だから改めてお酒の有り難みを感じるのだ。
シラフじゃこんな姿は見れないもの。

それから飲みに飲み続け、一松くんの愚痴もヒートアップしてきて「あんのクソ松が!」や「クズ野郎!!」などと大声で言うので、そろそろ出ようかと思うくらい恥ずかしい。

話__もはや愚痴だが__を聞くところによると、一松くんがお兄さんのカラ松くんと喧嘩をしているらしい。

それも初日ではなく2日目。
2人は寝るとき隣同士で寝てるらしいので、寝る時殺意が治らないとか殴ったとか……。

もう暴力振るってるじゃん。
なんてツッコミはいけないのか。


「一松くんそろそろ帰らない? 私眠くなっちゃって……ふあぁ……」


あくびをしながら言うと、一松くんは納得したように頷き、残った焼酎を一気飲みしてからふらふらとした足取りで立った。

私も残った塩辛を食べ、外は寒いので着てきたコートを羽織って会計を済ませた。
もちろん私のおごりだ。
いつもそうだけど。


外に出ると、ひゅうぅと右から左へ抜けていくような風が吹き、私の耳を赤くさせた。

辺りはシンと冷えて、地面には霜が降りているくらいの寒さだと言う事が嫌でも分かる。


手袋つけてくれば良かったな。
そう後悔しながら、かじかんで赤くなった両手にはぁーっと息を何度も吐く。


「寒いの?」

「えっ……うん、ほら! 今冬だしね!」


まさか一松くんの方から話しかけてくるとは思わなくて、思わず声が上ずった。

お酒を飲んだせいか顔も熱い。
顔全体が暖かい層に埋もれた様な感覚に陥る。


「……貸してあげる」

「い、いいの? ありがとう!」


次から次へと予想外の出来事が起こり、私は一松くんに貸してもらった紫色のマフラーを首に巻き「あったかい……」と声を漏らした。


「一松くんって、そういうとこ気がきくよね」

「……それは貶してんの?」

「褒めてるんだって!」

「まぁ、童貞なんだけどね」

「ぶっ……下ネタぶちこまないでってば」


こう言う自然なやりとりを、両方ともがシラフの時に出来れば理想だなぁー。

なんて思いながら帰路を並んで歩く。
霜が降りた地面に足が着くたびにザクザクとする心地いい音に耳を傾けながら、冬の冷気にさらされて冷たくなった自分の頬に触れる。

あ、こうするとあったかいな……。
そのかわり自分の手が冷たくなるけど。

なんてどうでもいい事を考えながら歩いていると、ふと下を向いた時に、隣に歩いていたはずの一松くんの足が見えない事に気付く。

焦って来た道を急いで戻ると、一松くんは真っ赤な顔のまま電柱に寄りかかっていた。

目を閉じているのに気付き、はっとして叫ぶ。



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