01
「ふー、これで全部!」
荷物の宅配を全て終え、私は近くの電柱にふらりと寄りかかって宅配便のリストを眺める。
佐藤さん、金谷さん、立川さんに……。
まぁ兎にも角にも、今日の分のノルマは終えたわけなので、私はトラックに乗り込み会社へと戻った。
「お疲れさん、もう帰っていいよ」
「お疲れ様です!」
部署の課長に挨拶をし、廊下やエレベーターで会う同僚たちにも挨拶を終え会社を出た。
まだ早めの4時だが、空はまだ明るい。
通りかかった公園では子供が遊具で遊んでいて、あぁー、あの頃に戻りたいな……なんて思ったりもする時もある。
就職せずに家でダラダラして過ごしたい。
そんな願望が宅配業者をしている私にはある。
まさに私の希望を実現している友人を持っているわけだが、彼らはかなり特殊だった。
中学の時に知り合った彼らだが、今でも週に何回か会ったりして交流はある。
中学時代は学生服だったので、その時はアホ毛も全員が2本で見分ける事が出来なかったが、今ではアホ毛が2本だったり1本だったりなかったりするのでまぁ見分けもつくわけだが。
2本は長男と次男と四男に末弟
1本は五男で、アホ毛がないのが三男。
そう、あの長蛇の列に並んで居る人がまさに三男の松野チョロ松そっくりで__ん?
「あれ、チョロ松くん?」
かなりの長蛇の列に並ぶ緑のシャツに茶色のズボン、そして両腕には何か写真がプリントされてある紙袋を下げている。
その列の先頭に居たのは、今人気のアイドル・橋本にゃーちゃんだった。
テレビ番組なんかで見た事はあるが、有名人自体を自分の目で見た事はなかったので結構興奮した。
そのにゃーちゃんがいる、すぐ後ろの壁に張り紙があり、そこには『握手会』とデカデカに書かれている。
チョロ松くんってにゃーちゃん好きだったんだ。……意外でも、ないかなぁ。
話しかけようか迷ったが、並んでる最中に話しかけに行ったら他の並んでいる人に横入り、なんて思われそうで、私は近くの壁に寄りかかってチョロ松くんの番が終わるのを待った。
数分経って、ようやく自分の番が終わったのであろうチョロ松くんが笑顔で列から出てきた。
私は待ってた甲斐があった!
そんな表情をしながら笑顔のままでにゃーちゃんを見続けているチョロ松くんに駆け寄った。
「チョーロまーつくん!」
「どぅえ!?」
「やっほー」
そう言って私がニコリと微笑めば、チョロ松くんは何やら異様に汗を垂れ流してファンの人と笑顔で握手しているにゃーちゃんと私を交互に見ながらオロオロしている。
「どうしたの?」
「いっいや……! えと、見たよね?」
「見たって……握手会のこと?」
何気なくそう言えば、チョロ松くんは膝から崩れ落ちて「最悪だ……!」と呟いている。
恥ずかしいから立ち上がって欲しいんですが。
路上に両手をつけて項垂れる彼に、切実にそう言ってあげたかったが、どうやら傷心中らしいので優しく「まぁ、立ちなよ」と声をかけた。
立ち上がったチョロ松の顔はやけに赤くて、そんなににゃーちゃんと握手出来たことが嬉しいんだなーと思いチョロ松くんの肩をぽんぽんと叩いて言った。
「にゃーちゃん好きなんだね!」
「……あああああキモいならキモいって言ってよおおその同情がオタクにとっては辛いんだあああぁぁ!!」
「……え? ち、チョロ松くん?」
何故か突然叫び出すチョロ松くん。
ちょっと、チョロ松くん?
並んでる人が好奇の目でこっち見てるから。
その悲痛の叫びやめよ?
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