02
「お前らそろそろ真面目に就活しろ!」
「えーやだー」
「ゴロゴロしてたーい」
「俺野球してくんね!!」
「……だる」
「フッ……働きたくない」
世の中の20代の社会人たちは働いているであろう平日の昼間、俺を含め、虚しい現実と向き合いながらも兄弟全員が家にいる。
おそ松兄さんは寝転がって漫画を読み、カラ松はいつも通りのキメ顔で鏡を見て、一松は外から連れてきたであろう猫を撫で、十四松は野球のバットを持って外へ、トド松は相変わらずスマホをいじっていた。
そんな兄弟たちに「本当にそろそろ就活しないとヤバイよ」と言ってから玄関に向かう。
僕はと言うと、これから就職先を見つけるために、ハローワークへと行くのだ。
いつも通りの水色のスーツを着て、履歴書や大事なものが入ったカバンを手に持つ。
僕は最近、とは言っても2ヶ月前くらいから担当をしてもらっている、なまえさんと言う女性の方に恋をしている。
なまえさんに会いたいがためにハローワークに行くなんて、下心見え見えと言う感じで生憎通い続けているのに就職先は決まらないのだが。
いつも通っているハローワークの扉をくぐり、順番が来ると窓口の場所に行き、席に着く。
膝の上にカバンを置き、内心かなりドギマギしながらなまえさんが来るのを待つ。
もう2ヶ月も担当してもらっているというのに、好きな人とだけあって緊張してしまう。
会話はあっても、それは就職の事だけ。
当たり前だとは思っていても、いつもの帰り道は溜め息のオンパレードなのだ。
今日もそんな感じだろう。
そう思っていたのに、なまえさんは「一緒に根気よく頑張っていきましょう!」と言って、予想外にも僕の手を包みこんで笑った。
時間が、止まったかと思った。
一気に顔が赤くなるのが感じる。
ぼおっと体温が上がる。
やばい、手汗をかいているかもしれない。
気持ち悪いって思われたらどうしよう。
と言うかなまえさんにとっては絶対、そういう変な意味ないのに、何僕ドキドキしてんの。逆に気持ち悪いよ、僕。
「あっあの……手……」
「えっあー、すいません! 何でだか握ってしまって。それでは履歴書拝見しますね」
緊張しまくりの僕とは違い、少し顔を赤くして机に置いてある履歴書を見るなまえさん。
……1人だけ舞い上がって馬鹿みたいだ。
自分から「手を離して」まがいの事を言っておいて、手を離したら離したで「あーやっぱ言わなきゃよかった」なんて本心が見え隠れする。
「やっぱり字、お綺麗ですね」
なまえさんにはいつもこの事を褒められる。
自分でも綺麗だとは思う。
だが、最初から綺麗なわけではなかった。
最初は普通より少し綺麗な字かな、と言ったくらいの字だったが、なまえさんからアドバイスを貰って以来、綺麗になったのだ。
……自惚れているわけではないが、綺麗になりましたねと常々に笑う彼女の笑顔が見たくて、なんてキザっぽいことは言えないが。
素敵です、なんて言われた日には、自分にじゃなく、僕の字に向かって言っているのに、目を瞑れば僕自身に言っているみたいで、何だか嬉しくなるのだ。
もちろん字を褒められるのも嬉しいが。
彼氏とか、いるのかな。
下心ばかりが芽生えてしまう。
そんな僕の心を打ち消すかのように、なまえさんは分厚い資料を紹介し始めた。
……仕事の事だけを考えよう。
僕みたいなニートが彼女できるわけないし。
はぁ……早く職に就かないと。
「まずは最初から会社に入社するのではなく、アルバイトから始めても良いですよねー」
「なるほど……僕は週5でも全然行けるんですが、雇ってくれそうなところありますかね?」
「ご希望の月収は20万でしたよね? コンビニでもスーパーでも、今では結構金額も行くので、週5も出られるなら大歓迎だと思いますよ!」
「そうですか! なら、やはりアルバイトから始めてみようかと思います……」
「分かりました、ではまた連絡をかけてみますので、後日お電話いたします」
色気のある会話なんてものは一切ない。
全て普通の業務的な会話だ。
普通に話しているのも楽しいけれど、やはり心の奥底では「プライベートな話が聞きたい、話したい」とばかり思ってしまう。
私服見られたらなぁ。
連絡先交換できたらなぁ。
なんて、悶々とする日々。
まぁでも、アルバイトくらいなら僕もできる。
トド松にも出来たんだから!
僕にも絶対にできるはず。
後日かかってきた電話の内容は「コンビニでのアルバイト」だった。
深夜だけだと難しいので、夕勤も夜勤も出てもらうと言う結果で話を進めたらしい。
なまえさんは申し訳ないと謝ってくれたが、それくらいでへばるようじゃカッコ悪い。
なまえさんは社交辞令かどうかは分からないが、バイト先にお邪魔してくれると言ってくれた。もうそれだけで頑張れる気がしてくる。
さっそく明後日からバイトらしい。
そして、耳元で囁かられているみたいで少し興奮してしまったのは内緒の話だ……。
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