小説 短編 | ナノ
02
「お前ってさ、その質問月1でしてくるよな」

「だって彼女出来たらさ、私恨まれちゃうじゃん? そう言う昼ドラ系ドロドロ展開やだから」

「……そっちかよ」


それ以外に何があるの?
と思わず口に出しそうになったが、良く良く考えてみればこんなの男からしたら期待する以外の何者でもない言葉なのではないだろうか。

前に妹が買っていた雑誌をたまたま見て、その中に『男のホンネ特集!』なんてものがあり、そこの中にそんな感じの内容があった気も。

なんて事を頭の中でぼんやりと考えていると、いつもの電柱に差し掛かった。

ここに来ると、私たちは必ずと言って良いほどにそれぞれの家の方向へ向かう。
たまに私がおそ松くんの家に遊びに行くことはあるが、それは本当にたまにで滅多にない。

なので自然と私は右へ、おそ松くんは左へ。
軽く手を振ってから帰るというのがいつもの基本ルールみたいなものになってきつつある。

私はいつも通り電柱を避け、右へ曲がり身体を少しひねったところで手を振ろうとした瞬間だった。


「……なんですか」

「ううっ! 俺だって彼女欲しいんだよー!」

「……はいはい、私だって彼氏欲しいよ」

「ううっ! じゃあ俺で妥協しない?」


涙目で私の背中をガッチリとホールドし、かなり酔っているであろう赤い頬を私の頬に擦り付けてくる。

猫か、なんて思ったが私はされるがまま。
そしてその「妥協」と言う言葉に、私はふんっと鼻を鳴らしながら「だーめ」と答えた。


「なんでだよ! 毎日俺と飲むくせに! 毎日お金出してくれるのに!」

「そうだね」

「月1で彼女いないか聞いてくるくせに! 俺にしか酔った姿見せないくせに……!」

「その通りだよ」

「うう、ばか! 俺のこと好きじゃないのかよ! 期待させやがってこんちくしょー!!」

「……私は好きだよ?」

「え? マジで?」


先ほどまで私を泣き落としていた顔が、すぐにケロリとした顔に変わった。

私はその表情をまた泣き落としの表情に変化させるべくおそ松くんのがっちりホールドを振りほどきながら「でも」と続けて言う。


「私はおそ松くんと付き合うつもりはないよ」

「なっなんだと!? それはつまり、友情の好きって事なのか!? DTを弄ぶなバァカ!」


いかんせん、いくら高校からの付き合いの仲の良い女子とは言えど、そのワードはキツいんじゃないか。

そしておそ松くん、DTだったんだね。
初耳だよ、言わなきゃ良かったのにね。


「もう、離れてってば……」

「返事を聞くまで離れねぇよーだ!」

「あんたは子供ですか……」

「子供でいーし!」


なんて意地っ張りなんだろう。

この頑固さにはきっと両親も苦労しただろう。
ただでさえ六つ子だと言うのに。

ある程度顔見知りのおそ松くんのご両親を頭に思い浮かべながら、今度は前から抱きついてくるおそ松くんを剥がす。

アホ毛が当たってくすぐったいなもう。


「結局俺の事恋愛的で好きなわけ!?」

「……うん、好き」

「え?」


予想外の答えだったらしく、おそ松くんは私の両肩に手を置いたままフリーズした。

そして数秒後、正気に戻ったらしいおそ松くんは私の肩から手を離し、ふらりと千鳥足で電柱にもたれかかった。


「俺たち両想いなの?」

「おそ松くんが私の事そう思ってるならね」

「俺の事好きなの?」

「……そう言ってるでしょ」

「じゃあなんで付き合ってくれねぇの!?」


真っ赤な顔で頭を抱えるおそ松くん。

ずいぶんとオーバーリアクションな彼の反応を見るのは、失礼だが結構面白い。

私は訳が分からないと顔をしかめるおそ松くんに、良い加減答えを言ってあげようと思い短い溜め息を吐いた。


「あのね、おそ松くん。私が言いたいのは、おそ松くんの事は恋愛対象として好きだけど、恋人にはなりたくない。オッケー?」

「いや納得できないんだけど!?」


目を丸くさせていつも以上のツッコミをかますおそ松くんの反応を楽しみながら私は続けた。


「まぁ聞いてよ。私はこのままの関係が良いの、だって恋人だと色々気を使うでしょ? 私、今のままの友達関係がいいの、毎日お酒飲んで愚痴って、たまに家に遊びに来てトランプしたりして夜には帰る、そんな関係がいいの」

「……意味わかんねぇ」

「まだ分かんないの? にっぶーい」

「いや普通に考えて分かんねぇから!」


お前の思考回路おかしい!
なんて私を指差して言うおそ松くん。

失礼な、君よりは正常だよ。


「つーまーり、友達みたいな恋人がいいの! 矛盾してるけど、恋人だとどうしても恋人っぽいムード作りたくなるでしょ? 友達ならそのままの素をさらけ出せれる。まぁ、そんなわけで、好きです、私と付き合ってください」


私がそう言って笑えば、おそ松くんは俯いたまま笑ってから顔を上げ、私に抱きついた。


「俺も好き!こちらこそ、よろしく!」

「……へへ、よろしく」


(やっぱお前って変だわ)
(おそ松くんに言われたくなーい)
(なぁ、もう一軒飲み行かね?)
(もうお金ないから!)
(チョロ松から分捕ってくるからさ〜)
(何弟からぶん取ろうしてるの!)
(ちぇ……)



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