02
「あの、今暇ですか?」
男にしては高い声。
いや、完全に女の子。
思わず振り向き、その姿に驚いた。
前にからかってきたおそ松兄さんなんかではなく、可愛い俺と同年代くらいの女の子。
黒髪よりも少し茶色目の焦げ茶の髪。
揺れるポニーテール。
細く長いまつ毛に白い肌。
完璧に可愛い。
レンタル彼女の時に、イヤミとチビ太に変身された時のあいつらよりも可愛く感じる。
本物の女の子だからだろうか。
女の子は、恥ずかしがっているのか、オドオドしたり、俯きながらもじもじしている。
その顔は赤く染まっていた。
その姿を見て、俺は一つの結論に辿り着く。
まさか……逆ナン!?
逆ナンはクリスマスの時に一度あったが、それはただの店への勧誘に過ぎず、金をたくさん絞られてしまったのを思い出す。
それとは違う。
まさに水商売で働いてそうな女の子と言うわけではなく、素朴で可愛い女の子。
こんな子が勧誘をするはずない。
逃した魚は大きいとよく言う。
俺は「逃してたまるか!」と言う、その一心で声をかけたげにもじもじしている赤面の女の子の手を両手で掴んだ。
その子の表情が一転して驚いた表情に変わる。
目を丸くし、俺の顔と掴まれた手を交互にキョロキョロと目線を泳がせていた。
「お嬢さん」
「はっはい!」
「俺とどこかでお茶しませんか?」
そう、いつものようにかっこつけて言ってみたものの、それからの返事がない。
俯きながらプルプルと震えている。
まさか……外した!?
別に逆ナンでも何でもなかったのか!?
やばい、通報されたらどうしよう。
俺の頭の中はそれ一色だった。
だが、それも次の女の子の一言で消された。
「私でよければ、よ、よろこんでっ」
……可愛い。
女の子の反応だ。
むさ苦しい男とは違う。
「……回り出したぜ! 恋の歯車!」
「は、はい?」
「あ……いや、その……!」
また外した。
うう、かっこつけると今日は失敗するな。
その子の手を掴んだまま目線を横に泳がせていると、その子は「ふふ」と笑って言った。
「面白いんですね」
その一言でもうノックアウトだった。
チョロ松に良く「チョロいな!」とからかってきた幼少時代だったが、俺もチョロいんだな。
そう思え、その子の笑顔に顔が赤くなった。
「えっと……では、どこへ行きますか?」
そう言うその子の言葉に思わず固まる。
俺はオシャレな店なんて知らない。
きっと女の子と良く遊んでいる末弟なら、女の子が好きそうな店を知っているのだろう。
そう思いながら辺りをキョロキョロする。
オシャレで女の子が好きそうな店。
……と考えればば、俺に思いつくのは兄弟皆で行った、あそこくらいだった。
「す、スタバァだ……!」
「いっいやだったか!?」
「そうじゃないんです……私、スタバァ入るの初めてで……オシャレだなぁって!」
「そうなのか……」
スタバァ入ったことないのか。
そう思えば俺も一度しかないな。
トド松のバイト先に行った時のことを思い出すぜ……!
「ふっ……ラテのトールサイズ、エスプレッソをドッピオで」
「えっと……ス、ストロベリークリームフラペチーノで!」
注文を終え、商品をテーブルに置いて席に座ると、突然女の子がため息を吐いた。
も、もしや、つまらないのか……!?
どうしよう、デートなんてしたことない俺に、女の子の心得なんて分かるわけないぞ。
頭の中をグルグルにしながら必死に答えをめさぐっていると、その子はハッとしたように俺の方を凝視して青い顔で言った。
「あ! あの、デートがつまらないとかじゃなくて! さっき、私注文で噛んじゃったなって……恥ずかしくて、それだけなんで! お気にせず!」
「なんだ、そうだったのか、つまらなくてため息つかれたと思ったぜ……?」
「う、すいません」
そう言ってフラペチーノをストロー伝いに飲み「美味しい……」と笑顔を零す彼女。
「……可愛い」
「っえ!?」
「いや! その、可愛いなと」
「お、お世辞とか良いですよ! それと、まだ名前聞いてませんでしたよね、私はなまえです。よろしくお願いします」
別にお世辞なんかじゃないのにな。
謙遜しながら言う彼女に倣って「松野カラ松だ、よろしく」と言ってからラテを飲んだ。
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