03
「生まれました! 元気な男の子ですよ!!」
視界が全部、華やいだ気がした。
目の前にはオギャアオギャアと泣く赤ん坊。
産まれたての、俺たちの赤ん坊。
「……可愛い」
心からそう思えた。
親の気持ちってこんななんだ。
自分を育ててくれた両親もこんな気持ちだったのかな、と考えたが、それもまた先生の言葉で一気に引き戻された。
「二人が逆子だ!」
逆子。普通なら頭から出てくる赤ん坊が、足から出てきてしまうのが逆子だ。
今、二人目の赤ん坊はそれになっている。
なまえの顔はさっきよりも辛そうで、俺の顔も同じくらいに自然と歪む。
一人目は9時間かかって産まれ、俺は逆子じゃないのに何でこんなに長いのか、と思ったが、どうやら普通はこのくらいかかるらしい。
つまり、次は難産の逆子。
時間は何倍もかかる。
俺はずっとなまえの辛そうな顔を見たままで、俺はただ先生に言われた通りに背中をさすったり、息を吐くときに腰を押してあげたり。
なまえの痛みに比べたら、どうって事ない事ばかりしてるだけで、すごく辛く感じた。
最初の陣痛から、もう21時間。
出産ってこんなにかかるものなのか。
長いと2日は普通と聞き、かなり驚いた。
ずっとなまえは苦しそうにいきんでいる。
眠気なんて湧いてこない。
ずっとなまえを見てるだけでも辛くて、逆に眠気なんて来たら申し訳なさでいっぱいだ。
汗だくのなまえの身体をタオルで拭いたり、水分補給か必要な時は水を飲ませてあげたり。
「なまえ、がんばれ、がんばれ!」
「っ……う、はぁ……はぁ……」
その痛みを代わってあげられたらいいのに。
この21時間、何度思ったことか。
目の前で愛する女性がずっと苦しんでいるところを見るなんて、男としては凄く辛い。
なまえから「もう出てって」と聞いた時は、心臓が止まるかと思ったくらいだ。
一緒に待っていてくれた看護婦さんに聞くと、こういう事は良くあるらしい。
恥ずかしい、という事が理由で。
……俺は気にしないのに。
あれから2時間経ったんだろうか。
俺の神経はずっと張り詰めていた。
俺以外にも数人男の人が黙って、閉まったままの分娩室をじーっと見ている。
この人たちも俺と同じ気持ちなんだ。
そう思うと気が楽になった。
「オギャアアアア!! オギャアアア!!」
その産ぶ声に思わず俯いていた顔を上げた。
俺はドアが壊れるんじゃないかと思つくらいに力強くドアを開け、笑顔のなまえに近づいた。
「……産まれた、の?」
「うん、私たちの子だよ。女の子と男の子」
ぐったりした顔で笑うなまえ。
その隣には男の子と女の子の赤ん坊が横になっており、最初に生まれた男の子はぐっすりと寝ており、生まれたばかりの女の子はまだ泣いていた。
「っなまえ、ありがとう、ほんとにありがとう。俺はクズな野郎だけど、ちゃんとこの子たちのためにも、なまえのためにも頑張るから。俺、良い父親になるから!」
俺が情けなくも、ボロボロと涙を零しながら嗚咽の含んだ声で言うと、なまえは俺の両手を握ってにこりと笑って言った。
「うん、私も良いお母さんになれるように頑張るね。ずっと付いていてくれてありがとう」
「……っなまえ!」
俺は横向きになって双子たちを抱きかかえているなまえを、双子たちごと抱きしめた。
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