小説 短編 | ナノ
02
「妊娠高血圧症候群?」

「はい、なまえさんは今その症状にかかっています、双子を妊娠される方は特に多いんです。一人産むのも大変なのに、一度に二人を産むわけですから」


その結果を聞き、俺はまるで一瞬、自分以外の他の人たちの時間が止まったのかと思うくらいの錯覚にかかった。


「出産のリスクはもちろん高くなります。今、なまえさんの状態は母子ともに危険な状態です」

「エコーで見たところ、胎児は一人は通常のままですが、もう一人が逆子でした。難産になりますよ、旦那さん、貴方も覚悟しておいてください」


難産、逆子、危険。
その言葉が頭の中をグルグルと回る。

もし、もしも。
その後の悲惨な出来事を考えて吐き気がした。

クズでバカな俺でも、逆子の意味は分かる。
難産だって分かる。

でも、そんなわけない。
あいつと生きるって決めたんだ。

なまえのために仕事も探した。
なまえのために家事もした。
なまえを守りたいから。

失いたくない。
絶対に、子供も、なまえも。


「っ先生」

「……はい」

「なまえを、子供を助けてください……!」


ああ、柄にもなく涙が出てくる。

大人なのに情けない。
そんな感情よりも悲しみ、辛い、哀の感情が断然に勝っているのだ。

先生は俺の顔を見て、ニコリと安心させるような顔で笑って「はい」と答えた。

先生に「立ち合いますか?」と聞かれ、前々からなまえとは「出産の時は立ち会ってね」と言われていたので、立ち会うために陣痛室に通された。

もうすでに台に座っていたなまえの顔色は真っ青でとても辛そうに息をしていた。

思わず先生の止めようとする手を振り切り、苦しんでいるなまえの側に駆け寄る。


「っなまえ、なまえ!」

「だ、いじょぶ……だから、はぁっはぁ……」

「ちょっと、大丈夫なんですか!?」

「陣痛はこれが普通ですよ。ふふ、かなり心配されて、奥さんの事大好きなんですね」

助産師さんの言葉に「うっ」と息がつまる。
その言葉だけで顔が赤くなるなんて。


「いち、まつさ……」

「どうしたの!?」

「わたし、がんばる、から……」

「うん、うん、がんばれ!」

「はーい、もうおしゃべりは終了です。陣痛中のおしゃべりも結構辛いんですよ」

「すっすいません!」


そうだったのか。
やっぱり辛いよな。
こんな苦しそうな顔して。

助産師さんの言葉に、心にずっしりとした重りがつけられたような感じがした。

俺が少しして「大丈夫?」と声をかけると、ボーッとした虚ろな目のまま俺のなまえをか細い声で呼ぶ。

もうそれだけで涙がポロポロ出てきた。
こんなに涙もろかったっけ、俺。

助産師さんに言われ、ずっと苦しそうしているなまえの背中をさすっていた。

結構な時間が経った頃、先生が「移動します」と言ってなまえと一緒に分娩室へ移動する。

移動するとき、台の上でずっと俺はなまえの手を、ギュッと握っていた。

陣痛の痛みが最大に達したようで、なまえはさっきよりもかなり辛そうな顔で、まるで過呼吸みたいな状態になっていた。

心臓よりも奥のところを強い力で握り締められたように動けなくなったが、先生と助産師さんの「吸って〜吐いてー」と言う言葉にハッとして俺もその声かけをした。

背中をさすったり、声をかけたり。
目の前で自分の妻が苦しんでいるのに、こんな事だけしかできないなんて情けないな。

早く産まれてきてくれ。



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