01
「なまえ、大丈夫?」
「ほんとに大丈夫なの?」
「俺がやるから座ってて」
「俺に任せといて」
最近、こんなにも旦那が私を心配するにはある一つの嬉しいわけがあった。
私と旦那である松野一松さんは、ちょうど数ヶ月前に籍を入れ、結婚したのだ。
それから私の吐き気やお腹の痛さを心配した一松さんに病院に連れて行ってもらうと、妊娠が発覚した。
一松さんとその親御さん、その兄弟の人たち、もちろん私の両親も泣いて喜んでくれた。
今では妊娠10ヶ月。
一番辛かったのは9ヶ月目だったが、今でもその峠は越したため結構安泰でホッとしている。
妊娠は十月十日なので、もう生まれるんじゃないかと一松さんはずっと私につきっきりだ。
洗濯も洗い物も掃除も。
ほとんど一松さんがしてくれて、私としては凄く助かっているが、優しい一松さんに甘えている自分も何だか気分が曇る。
「ほら、お茶飲んで」
「ありがとう……」
紅茶を一口飲んだ途端、身体中にズキンとはっきり聞こえるくらいの痛みが走った。
思わずその痛みに持っていたティーカップを落としてしまい、溢れた紅茶が白いカーペットに染みを作る。
ティーカップは割れ、そこら中に散らばった。
「うぅ……はぁ、はぁ……っ!」
「ど、どうしたの!? なまえ、ちょっと!? ま、まさか……病院行こう!」
さすが、やはり頼れる一松さんは私の状況を察してくれ、私を抱き上げて家を出た。
恥ずかしい気持ちもあったが、それ以上に身体中を突き抜ける痛みが買っていたのだ。
「なまえっ……車、乗るから」
「う、うん」
「ほら……」
車の助手席に乗せられ、シートベルトを緩くだがカチャリと留められる。
視界が朦朧としている。
双子だとは聞いていたが、やはり一人を産むのと二人を産むのでは痛みが違うのか。
それなら一松さんのお母さんは相当に頑張ったんだろうな、と真剣な顔で車を出す一松さんの横顔を見つめた。
「なまえ、すぐ着くからな」
「わかった……はぁ、はぁ」
息切れが止まらない。
一気に100メートル走を走りきった学生の頃みたいに激しい息切れが続く。
車が動き出し、その衝動で車内が少し揺れるがそれ以上にも早く病院に着いて欲しい。
数分経ち、すぐに病院に着いた。
自分でも病院に近い物件を選んで良かったと後悔せずに思えるくらいだ。
一松くんは一番病院の入り口に近い駐車場に車を停め、先に車を出た。
助手席側のドアが開き、一松くんが焦ったように汗をかきながらシートベルトを外し私を迷いなく抱きかかえる。
「っごめん、ちょっと走る」
「う、ん、へいっき……」
病院に着くと、一松くんはすぐに分娩室に移動するように医者に言った。
私はすぐに移動する事になって、移動用の台車に乗せられ、ナースさんたちに運ばれる。
「はぁ……っはぁ、うぁ」
「頑張ってください、大丈夫ですよ!」
そんなナースさんたちの励ましの言葉を浴びながら私は呼吸を必死に整えた。
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