小説 短編 | ナノ
04
「うーん……」

「ねぇ、トド松くん」

「なに?」


もうこうなったら言おう。
これでダメだったなら、それはきっと私がトド松くんに嫌われているということなんだ。

私は震えた足をしっかりと地面につけ言った。


「トド松くん、私と2人きりで出かけたくなかったんなら……別に、嫌だって言っていいんだよ?」

「……え」


ああ、嫌だって言われたらどうしよう。
馬鹿だな、聞いたのは自分なのに。

ドクンドクンと心臓の鼓動が、自動車が走る音よりも、誰かが話す声よりも大きく聞こえる。

まるで周りの音が遮断されたように。

急に頬に何かが触れているのを感じ、自分が涙を流していることに気がついた。

涙が頬を伝ってポトリポトリと地面に着いては、灰色のコンクリートに濃いシミをつける。

私が急に泣いたために、トド松くんは困ったような顔のまま私を見ていた。

ああ、完全にめんどくさい女って思われた。

居た堪れなくなって、私は思わず兎にも角にも逃げ出したくなる衝動に駆られた。

あーもうダメだ。
何かがそう感じ取り、私は涙を腕で拭いながら改札口とは反対の方向に向かって走った。


「っ待って!」

「ええ!? こ、こないで!」

「いや! ちょ、本当に待って!」


後ろから、はぁはぁと息遣いが聞こえる。

私はなにより泣いた姿を見られたくはなかったし、それにもう心がズタズタだからだ。

あまりにもトド松くんが待って、と連呼するので私は思わず足を止めた。


「っようやく捕まえたっ!」

「……私、めんどくさい子だよね。自分でも分かってるよ、トド松くんに避けられてること」

「なまえちゃん……僕、別に避けてないよ! ただ、なまえちゃんといると、なんかこう、落ち着かなくて……」

「どういう意味で?」

「あーその、す、好きって意味で……」

「……れ、恋愛の方で?」

「う、うん」


もう頭はショート寸前だった。

嫌われていたと思ったら好かれていたなんて。
何この少女漫画展開。

トド松くんが私のことを恋愛的な意味で好き、という事を聞いて顔が赤くなった。


「……私も好き!」

「え? そ、それほんと? 嘘つかないでよ!?」

「嘘なんてついてないよ! 私、高校の時から好きだったもん!」

「……気づかなかった」

「気づかれないようにしてたしね」


公園のベンチに2人で腰掛ける。

少しだけ気まずくて、トド松くんとは少し距離を置いた場所に座ると、トド松くんは目を丸くしてから私の肩に自分の肩をくっつけた。

……周りから見ればカップルだったりして。

なんて、変な事を考えて思わず顔が赤くなる。
隣をチラリと見れば、トド松くんの顔は耳まで真っ赤に染まっていた。


「……トド松、もしかして恥ずかしいの?」

「当たり前でしょ! 告白するのってさ、すごい勇気いるんだよ! 恥ずかしくないわけないじゃん!」

「い、いやぁ……昔からスキンシップ激しかったし、そう言うの恥ずかしくないのかなって」

「はぁ……恥ずかしいよ」


そう言って拗ねる顔にキュンときた。
……ああ、やっぱかわいい。
可愛くてかっこいいなんて。


「あのさ」

「なに?」

「わっ私! トド松くんの事が本当に好きなの! だ、だから……つ、つき」

「ちょっと待って!」

「……え?」


意を決し、バッと立ち上がり「付き合ってください」と告白しようと言おうとしたのに、それはトド松くんに遮られた。

どういうこと?
私とは付き合えないの?

そんなネガティブな考えが頭の中を回る。
だってそんな思考しか浮かばない。



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