小説 短編 | ナノ
03
「まだかな……トド松くん……」


腕時計と四方八方を交互に見る。
現在の時刻は午前11時ちょっと前。

早く着きすぎたなぁ。
着いたのが30分前だもの。
張り切りすぎて気持ち悪いかもしれない……!


数分経ち、ようやく午前11時になった頃。

ポツンと壁に寄り掛かる私の目の前を通り過ぎて行く人の波も減ってきた。

まさか忘れられてる?
なんて捨てきれない可能性が自分の中で浮かんできて、思わず顔がむうっと歪む。

そう、寝坊かもしれないじゃん。
気持ちはポジティブに行かなきゃ。
……うん、ポジティブにね。


あれから30分。
いまだにトド松くんは現れない。

私は耐えきれずにカバンからスマホを取り出し、電話帳から恵の番号にかける。

プルルルル、プルルルル、プルルルル……。
プルルルル、プルルルル、プルルルル……。


「はーい、何?」


6コール目でやっと出た恵の声にはぁ……と小さく安堵の溜め息を漏らしながら言った。


「どうしたもこうも、トド松くん来ないの!」

「……え、今11時30分だよね?」

「うん」

「わー、見事に30分オーバー!」

「笑い事じゃなーい!」


思わず「本当にその時間であってる!?」なんて責めてしまい、連絡を取り持ってくれたのは恵なのにとはっとして訂正しようとした時だった。


「おっ遅くなって……っごめんねっはぁ……」

「と、トド松くん……! だ、大丈夫! 全然大丈夫だよ! 私、恵と話してたから暇じゃなかったし__」


走ってきたのだろうか。
少し汗をかき息が乱れたトド松くん。

呼吸を整えようとする。
そんな姿でさえ絵になるな、なんて。
オシャレだし……私の格好変じゃないよね。

ああ、自信なくなってきた!


「え? 恵って……高崎ちゃんの事?」

「うん、そうだよ」

「だって……え? 高崎ちゃんと、なまえちゃんと、僕の3人で遊園地行こうって……え?」


……ドタキャンの事なんて説明しよう。

戸惑い顔でそう言うトド松くんの反応に困り、思わず声が聞こえ出なくなり立ち竦んでいると、スマホから恵が叫ぶ声が聞こえた。


「私と変わって!」

「はい!?」

「私と松野くん! 早く!」

「わっ分かった! はい、トド松くん!」

「え? 僕!? は、はーい、もしもし?」


……なんかカオスだ。

恵に言われるがままにトド松くんにスマホを渡せば、数秒経ってからトド松くんは私に片手でごめんのサインを送ってから少し離れたところに移動した。

……何話してるのかな。
うわ、私なに恵に嫉妬してんの。
恵は彼氏いるのに、協力してもらってるのに、本当つくづく私って馬鹿なんだなぁ……。

少ししてからトド松くんがスマホを握った手をダラリと下げて戻ってきた。


「はい、これありがとう……」

「う、うん」


トド松くんから返されたスマホの画面を見れば、もう画面は真っ黒になっていた。

電話切ったんだ。
何を話してたかなんて、聞いたらダメかな。
……めんどくさい子って思われたくないし。

私はどうやってドタキャンの話を切り出そうか、もんもんと悩んでいるとトド松くんの方から「ねぇ」と声をかけてくれた。

思わずびくりと肩を動かし上を向く。


「高崎ちゃんから今日これないって聞いたよ。彼氏とデートだって……知ってた?」

「まぁ……さっき、聞いた」


あれ、なんか変な雰囲気。
やっぱり私と2人は嫌だったのかな。

……自信、なくなるなぁ。



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