02
「ぷはーっ!」
コップになみなみと注いだオレンジジュースを一気飲みする十四松くんを見ているだけで自然と顔がほころぶ。
十四松くんの嬉しいそうな顔を見ているだけで、心臓に熱湯が注がれたような感覚に陥る。
それで、やっぱり好きなんだなー。
と再確認して顔が赤くなる。
うん、エンドレスループかな。
「……あれ」
「え?」
「く、くっさい!!」
「……え!?」
い、いきなり臭い!?
私臭いの!? 私臭かったの!?
だからと言って、そこまで直球に言われると、そこはオブラートに包んでと泣きたくなる。
うう、どこが臭いの?
私ちゃんとお風呂入ってるのに……!
好きな人に臭いなんて言われるの辛すぎでしょ。ああもう立ち直れないレベルだ。
「わ、わわわ、私……くさい?」
「え!? なまえちゃんじゃなくて俺!!」
「……はい?」
「俺、さっき川泳いでたからすっげー臭い!! うわ、俺このままでなまえちゃんとお喋りしてたんだ! うわ、はっずー!!」
その言葉を聞き、安堵なのか驚きなのか、よく分からない感情からの溜め息を吐き出した。
「えっと……お風呂はいる?」
「いいの!? ありがとー!!」
「う、うん、ぜんっぜんオッケー、じゃあ準備してくるから待っててねー」
十四松くんとの会話を終えた後。
ダッシュで洗面所に向かいバスタオルとタオルを出し、お湯を張る。
「……勢いで言っちゃったな」
もしも「いくら女友達でも、お風呂貸してくれるとか引くー」なんて思われたらどうしょう。
でも十四松くんに限ってそんなことは……!
と、信じたい後悔の嵐。
お湯を張り終え、なるべく洗面所を綺麗に見せようと干している服を棚に仕舞う。
「十四松くん、入っていいよ」
「んじゃ、お邪魔しまーす!!」
「はーい」
ガチャリ。
ドアを閉める音がした後、私の心臓の鼓動は2倍にも膨れ上がっていると思ってしまうほどにドクンドクンと鳴っていた。
……平常心、平常心。
余計な事を考えないことにしよう。
そう、それがいい。
熱くなった頬を冷ますように、キッチンに駆け込み冷蔵庫の中に顔を突っ込んだ。
あーやばい、何がやばいかって。
色々とやばい、状況的に。
だって考えてみれば、好きな人が自分の部屋でお風呂に入っている状況なのだ。
……ありえないでしょ。
うう、無防備だな本当に君は!
ほっと一息でもつこうと思い、気持ちを鎮めるかのように麦茶を飲もうとした時だった。
「なまえちゃーん!! 大変!! 来てー!!」
「ぶっ……ど、どうしたの十四松くん!?」
「いいから来てー!!」
「う、うう……は、はーい!」
なになになに。
私の思考回路グルグルなんだけど。
とにかく呼ばれているため、洗面所の前にまで行くと、なにやら中からジャージャーと水が放水されている音が聞こえた。
シャワーしてるのかな。
……平常心、平常心。
「十四松くん、私はどうすればいいの?」
「入ってきて!!」
「ええ!? な、なに言って……!」
「お願い早く!!」
「うぅ……分かったよ……」
決して私は変態じゃない。
私は変態なんかじゃないんだ。
そう自分に言い聞かせながら、恐る恐るプルプルと震える手でドアノブを回した。
「入るからね! ってうわあぁ!?」
中に入ると、目の前には曇りガラスの浴室のドアに激しく打ち付ける水。
「た、助けてなまえちゃーん!! 水が止まらないの!! 冷たくて死にそう!!」
「ええ!? ちょっと待って、今行く……あ」
その言葉に顔がさぁっと青ざめ、何も考えずに思わず浴室のドアを開けた私。
当然目の前には裸の十四松くん。
……やっちまった。
私は今日から変態のレッテル貼られるんだ。
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