03
「んで、いつ帰るんですかー?」
「明日になったらね」
「もう深夜2時なんだけど!?」
一向に帰らない一松くん。
そろそろ私も眠くなってきた。
普段夜更かししても平気な私だが、今回はお酒も入っているせいで、もう睡魔に攻撃されつつある。
一松くんはテレビのバラエティー番組も見ながらカルピスを飲んでいる。
「ねぇ、私寝たいんだけど」
「なら寝て良いよ」
「え……それも、ねぇ」
私が渋って言えば、一松くんはボーッとしていた顔をニヤリと歪めて言った。
「襲わないよ」
そこの言葉に、自然と顔が赤くなる。
「お、思ってないから、そんな事!」
「どーだか、なら寝なよ」
「……一松くん、まさか朝になるまで私の部屋に居座る気じゃないでしょ?」
「あー、バレた」
「帰ってくれません!?」
何を言っても無駄だ、と言いたげに両耳を塞ぐ仕草をし、そっぽを向く一松くん。
……子供か。
いや、子供はこんな時間まで起きてない。
なら大きい子供だ。
「と言うか私お風呂入ってないんだけど!?」
「なら入って来れば」
「さ、サラリと言うな!」
「取って食おうなんてしないよ」
「く、食おう……!?」
……さすがに、私とて彼氏でもない異性と2人きりの時にお風呂に入るなんて、そこまでの勇気はないわけで。
「……朝入るからいいよ、もう」
「そーすれば」
「ひ、他人事だと思って……!」
「だって他人事だし」
「それもそうだけどね」
でも、そろそろ着替えたい。
別の部屋で着替えるくらいは良いだろう。
自分にそう言い聞かせ、一松くんに「他の部屋に入らないように!」と念を押し自分の部屋に入り着替えを出す。
いつもなら上下スウェットなんて、女子力皆無のファッションだが、一松くんの前でそんな格好を晒せるほど私は勇者ではない。
引き出しやクローゼットをあさり、そこから少しでもマシな服を取り出し、それに着替える。
「……はぁ」
溜め息を吐き、シャツを脱いだ時だった。
開くはずのない扉がガチャリと慌てたように音を立てて開く。
「はっ!? ちょ、い、一松くん!?」
「なまえ、俺なんか、もう無理」
「……はぁ?」
ズボンは履いていたからいい、だが上半身は下着だけなので、瞬発的に脱いだシャツでそれを隠すような体制のまま。
一松くんは私のちょっと待って、の声なんてお構い無しにズカズカと入ってくる。
「ちょっちょっ! 一松くん! ストップ!」
え、無言怖い。
まさか、まさか。
私の頭の中でアーッな出来事がグルグルとループし、思わず顔が赤くなる。
「い、一松くん! 本当に待って! わー! こ、来ないで……って、んん?」
私の方に来るかと思えば、私を通り越し、お構い無しにベッドにダイブし毛布を被る一松くん。
ああ、状況が掴めない。
ええ? 我慢出来ないって睡眠?
……うわぁ、私変態じゃん……!
自分の想像した事柄を呪いたい。
私は一松くんが完全に寝ているのを確認してから、着替えを抱えリビングで着替えた。
「……一松くん、おやすみ」
ベッドが独占されてしまったので、私は止む無くもリビングのソファで寝る羽目になったのは言わずもがな。
だが、そんな怒りや呆れも普段の一松くんからは考えられないくらいの可愛い寝顔を見せられたら、そんな感情簡単に消えてしまうものだ。
……やっぱ、お酒の力は偉大だなぁ。
(あれ、なんでソファで寝てんの?)
(一松くんがベッド奪ったんじゃん!)
(一緒に寝ればよかったのに)
(ば、バカなの……!?)
(……ふふ)
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