小説 短編 | ナノ
02
「一松くんっ一松くん起きて!そんなところで寝てたら死んじゃうよ!?」


電柱に寄りかかり、地面に座り込んでいる一松くんの肩を両手でぶんぶんと揺さぶる。


「ん……」

「あっ一松くん! 良かったぁー起きた。そんなところで寝ないでよ……心臓に悪いから!」

「ごめん……」


そう言って寝ぼけた目をこする一松くんの姿にほっと溜め息を吐き、借りていたマフラーを外し一松くんの首に巻く。


「返すよ、寒いでしょ? ありがと」

「……うん」

「ほら、立って。ズボン濡れるよ?」

「立てない」

「……え?」

「手……手!」


酔っているせいか、真っ赤な顔で口までマフラーに埋め、両手を広げて上目遣いのまま「ん」と言って立ち上がらせるようにねだる一松くん。

……本当に成人男性?
そう思いながらも「ほら……」と言って、その手を取りぐいっと引き寄せ立ち上がらせた。

全く女子にこんな事頼むなんて……。
ああ、やっぱ男の人って重いな。
手意外と大きいな、とか思いながら。


「っちょ!?」

「んんー……」


一松くんのボサボサの髪が首元にあたり、恥ずかしさでくすぐったい気持ちになり、どうにか恥ずかしさを紛らわらせるために「あはは」と笑ってみせる。

つまり一松くんに抱きつかれている状態だ。
一松くんの赤い顔につられ顔が赤くなる。


「ちょ! い、一松くん!」

「……家」

「家!? 家がどうしたの!?」


なんて私の声は上ずったまま。
普段飲み友達、くらいにしか見てなかった一松くんに__よっているが__抱きつかれていると再確認すると、ますます恥ずかしい気持ちが募る。


「帰りたくない」

「……ん?」

「お前ん家行くから」

「いやいやいやいや!?」


抱きしめられたまま言われると、我が身の危険を結構心配するんですが!?

無理やり一松くんを引き剥がし、先に帰ろうとしたが今度は後ろから抱きついてくる。

……完璧に酔ってる。
今日はどうしたんだろう。


「送って行こうか?」

「やだ、なまえん家が良い」

「……なんで」

「カラ松と喧嘩したから」


素直に回答に思わず歩いていた足が止まる。

……ええ、可愛い。


「顔、合わせるの辛いの?」

「いや、あいつの顔見てると殺したくなる衝動に駆られるから……」

「わー、バイオレンス!」


全然思ってた答えと違う。

苦笑いをし、少し考えてから「じゃあちょっとなら良いよ」と答え、行き先を松野家から自分の家へと変更する。


会話もなく、風の鳴る音がだけが耳に残る。

家に着き、もしも誰かに見られたら彼氏かと勘違いされてしまいそうになるので、私はひっついたままの一松くんを引っぺがしロビーの中に入った。


「でけーマンション」

「思い切って買ったんだけど、やっぱ1人だとあの部屋の広さは寂しいんだよねぇ」

「……なら俺を呼べば良いのに」


その言葉に言葉が詰まる。
ほ、本当にどうしちゃったの今日は。

そのうち、近くに隠れた一松くん以外の六つ子たちが「ドッキリでしたー」なんて看板を持って出てきそうなくらい疑い深くなる。

こんな時間になると、ロビーにいる人はそうそうにいないわけで、管理人さんもいない。


エレベーターから降り、部屋に着くと、一松くんは千鳥のまま遠慮もなく部屋にズカズカと入って行った。


「ちょ、か、片付けてないから! せめて片付けだけでもさせてよ! 一松くーん!?」

「……別に汚くないよ」

「そう、なら……良いけど」


改めて考えると、いくら友達とは言えど、こんな深夜を回る前の夜遅くに異性と部屋で2人きりはまずいんじゃ?

なんて考えが頭の中に浮かぶが、一松くんの性格上ありえないよなー、と苦笑いしてからコートをクローゼットにかけた。

外の冷気がシャットアウトされたこの部屋は、あまり寒くはなかった。

カバンも置き、一松くんに「そこらへんに座ってて」と一言声をかけてから冷蔵庫を開ける。

……飲み物はお茶とカルピスだけ。
後はビールがあるけど、もう飲んだしなぁ。


「一松くん、お茶とカルピスどっちが良い?」

「……カルピス」

「オッケー」


カルピスを冷蔵庫から取り出し、2つのコップにとぷとぷとカルピスを注ぐ。

両手にコップを持ったままリビングに戻ると、一松くんはテーブルの前であぐらをかいて座っていた。

テーブルにコップを「どーぞ」と言って置くと、一松くんは「どーも」と言ってカルピスを飲んだ。






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