スラスラと筆が紙の上を滑る。

本丸の執務室で、紙の塔に囲まれた審神者が黙々と手を動かしていた。
連日の遠征、戦に遭遇した検非違使の報告など政府に書く報告は泡のように増えていく。もちろん、「泡のような」だけであって儚く消えたりはしてくれない。故に彼は執務室にもう三日間は篭り続けている。
頭の中は報告内容でいっぱい、脳みそはフル稼働している。早く終われと鬼気迫る勢いの中、審神者の肩にぽん、と手が置かれた。

「主さん、休憩ですよ」
「……はぁー……、おぉお……」
「お疲れ様です」
「お、う。疲れた…」

振り返ると、堀川が盆を片手に立っていた。堀川が休憩と声をかけるのは大体、三時間おきだ。もうそんなに経ったか。
張り詰めていた気が息が抜けるように緩み、筆を硯に突っ込んだ。

「お茶とそれからおにぎりを持ってきましたよ」
「うん…食べるよ……」
「……主さん大丈夫ですか?手が震えてますよ?」

堀川の気遣いに感謝感激だな……と疲れた頭で審神者は思った。疲れた笑顔で盆に乗っている湯飲みに手を伸ばそうとしたら、堀川に手を握られる。
え、なんだ。と訝し気に伺うと、堀川のいった通り手が小刻みに震える。
きっと長時間、筆を握っていたのに急に力を抜いたからだろう。こりゃ参った。

「あー…悪い堀川。お茶とおにぎりは手が治り次第頂くよ」
「え…」
「そんな悲し気な顔しないでくれ…俺だって腹が減ってるし喉が渇いたが、この状態で食おうとしたら書類にかかるかもしれないだろう?」

積まれた紙束を見ながら、すまないともう一度繰り返す。すると、堀川は悲し気な表情から顔を一変させた。

「そうだ主さん!僕が食べさせてあげるよ!!」
「は?…」
「そうだよ我ながら良い考えだ。さ、主さん口を開けて?」

キラキラと眩しい笑顔で堀川はおにぎりを差し出してきた。
いやいや、待てよ。後で食うからといったはずだ。どこをそうしたら、はいあーんの恋仲みたいな行動になるんだ。

「いや、堀川。自分で食う、ふがっ!?」
「遠慮しないで主さん!」
「ちはうんたが……」

断ろうと口を開いたら、無理やりおにぎりを突っ込まれた。違うんだが…と呟きながら、仕方がなく咀嚼する。
すると、お茶おにぎりお茶おにぎりと交互に口に押し付けられ結局、食べきるまで話すことはできなかった。

「主さんは、僕がいなきゃ駄目なんです……ふふふ」
「いや、大丈夫だか、ほぉが!!」

いやだから、おにぎりで口を塞ぐな。


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