今日は朝から本丸には雨が降っていた。現世とは切り離された空間にあるこの本丸にも、天気の移ろいが存在する。

鶴丸国永は縁側に座り雨模様の空を見上げていた。丁度、雨が降ったことにより当番だった畑作業がなくなったためだ。まさに恵みの雨。と喜んだ彼だったが、手持ち無沙汰になってしまった。

「さて…、仕事がなくなったからな。どう過ごそうか…」

いつものように驚きを求め本丸内にいる仲間にちょっかいをかけるか。それとも、大人しく兄弟刀と碁でも打つか……。

鶴丸は長い廊下を歩きながら、これからの予定を考えるけれど、どれもいまいち彼の興に乗らずに考えは霧散する。
自分は内番だけで今夜の出陣もない。仕事がないことはいいが、退屈なことは彼は嫌いだった。驚きがないと死んでしまうと表す程に。
そのとき、赤い巫女服をきた審神者が鶴丸の目に入った。いつも幼い短刀たちや近侍に囲まれている彼女の周りには、誰もいず珍しく静かだ。

それを見た鶴丸は、まるで新しい玩具を見つけた幼児のように目を輝かせ、どう驚かしてやろうかと悪知恵を働かせる。
そろりと足音や気配を消し、さぁ声を上げてやろうとした時第三者の声が聞こえた。

「よぉ、大将。いま戻ったぜ」

審神者の前に現れたのは、粟田口の薬研だった。

「おかえりなさい薬研。遠征お疲れ様です」
「あぁ、他の奴らは部屋に戻ってもらった。拾ってきた資材は鍛刀部屋に置いてきたぜ」

先ほどまで、遠征だったらしい薬研は少し疲労を滲ませた表情で審神者へ報告している。

一方、驚かそうと息を潜めていた鶴丸は薬研へ審神者を奪われてしまい、むっとした気分になった。
俺がああなるはずだったのに、と幼い独占欲が顔を出した。
そんな彼に二人は気付かず、なお話を続ける。

「ありがとうございます。しかし、報告は薬研が休んでからでも良かったんですよ?」
「疲れなんて、大将に会えただけで吹き飛んだから心配ないさ」

薬研はそう笑い審神者の長い髪を一房拐い、口付けた。彼女は薬研の行動に対し嫌がる様子もなく、控えめに微笑みを彼に返す。

まるで、恋仲同士の穏やかな愛瀬のような瞬間だった。

それを見た鶴丸は、強い衝動に駆られ踵を返しその場を去った。



・ ・ ・


「いったか……」
「何がいったのですか?」
「いや、鳥がいてな。じっとこっちを見てたんだよ」
「鳥が…。雨に濡れてなければいいですが」
「大将は優しいな」

濡れるどころか嫉妬に焼かれているだろうさ。薬研は目を細めた。

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