コンビニバイトとは、どんなお客でも対応出来るかである。

学校に通いつつ社会勉強も兼ねて、家から一番近いコンビニで働き始めた。住宅街近くにあるからか、老若男女問わず出入りがあり品揃えが豊富なのが特色だ。ちょうど人手が足りなかったらしいから、履歴書を持って言ったらすぐに採用された。学校が終わる夕方から未成年が働けるギリギリの時間で週3回のシフトで学生にとっては大金を手にできる。なかなかに充実した生活なのでは?と思う。
それにしても、コンビニというのは色んな人が来るなと常々思う。お菓子を買い漁る学生。漫画雑誌を立ち読みするだけして何も買わない人。たぶん晩御飯を買いに来る仕事帰り社会人。目的も買うものも違うけど、目につくお客というのはどの年代、男女問わずいる。こうゆうのをサラダボウルとか何とかのルツボとか言うのかもしれない。

「会計を」

少し遠くに聞こえた声にハッとする。陳列棚に置きかけた鮭握りを急いで並べて「はい」と少し大きめに返事をする。遠目にレジを確認するとレジ担当の獅子王くんがいない。まじか、と内心思いながらもレジ内に入り笑顔を作った。

「お待たせしました」
「あぁ」

お客はさして気に留めない様子で、カウンターにお茶のペットボトルを置く。ぴ、税込み128円。

「PEACEを1つ」
「はい、PEACEですね。こちら年齢確認商品のため、パネルの方の操作をお願いします。」

タバコの銘柄を覚えてしまうのも、コンビニバイトあるある。自分は吸えない年齢だけど。タバコを取りお茶と一緒に袋に入れながら、チラッとお客を確認すると、常連さんだと気付いた。一度も話したことはないけれど、お茶と平和のタバコを必ず買って行く人。そして、恐ろしく顔が綺麗で頭身が日本人じゃない。片目が髪の毛で隠れていて、視界悪そうって獅子王くんが言っていたけど獅子王くんも人のことが言えないくらい前髪が長い。おまいうって奴だ。

「年齢確認ありがとうございます。合計で1,128円です」
「あぁ」

お茶の人はこれまた外見にたがわず通る声で返事をすると、後ろに手を回した。内心でまたか!と少さ々身構える。お茶とタバコを買うだけならいくらでもいるし、見た目が良い人だってそこそこいるが、なぜ私が覚えてしまったというと「これ」に他ならない。

スッとジーンズの後ろのポケットから取り出された、むき出しの札束のせいだ。

レジをチェックするふりをしつつ、内心では「あー!!お客様!!お札はズボンの尻ポケットではなく財布にいれてください!!あー!!お客様!!困ります!!おきゃkusあぁーーーー!!」と叫び倒す。
諭吉何人ですかレベルで厚めの札束が何にも包まれず、一番守備力が低そうな尻ポケットから出てくる様は心臓に悪い。手頃な財布なら10個以上買えるくらいの金額を持ち歩いているのに。財布を買ってください。といつも思う。
ペラリと置かれた一万円札は二つ折りの跡が付いている。あヽ無情。

「10000円からでよろしいでしょうか?」
「あぁ」

もっと小銭とか出してもいいのよ?むしろ出してくれ、財布とかから。と少し期待するが、結局むき出しの札束以外は出てこない。レジに支払額を入力し、開いたレジスターからお釣りを取って渡そうとする。

「こちら、5000、6000 、7000、8000 。8000円と…」
「あぁ、小銭はこちらに入れてくれ」

お札を数えてから、小銭を出そうとすると彼は細長い指でコンコンと募金箱をつついた。財布がないから小銭が嵩張って邪魔になるんだろうな、と思いつつも剥き出しのお札もどっこいどっこいなんだよなと真顔になる。

「募金箱に入れてよろしいですか?」
「あぁ、構わない」

ちらりとお客さんを伺いながら、ジャラジャラと募金箱に硬貨を落とす。うわー私こんなに募金箱に入れたことないなーとちょっと罪悪感が芽生える。こうゆうことができるのは、金銭と心に余裕があるからだと思う。私は、どちらとも余裕がない。悲しみ。

「レシートはどうなさいますか?」
「あぁ、ところで。ペンを持ってないか?」
「はい…?ありますよ」

レシートを片手に問いかけると、全く答えになっていない言葉が降ってきた。何か書き物でもするのか…、胸ポケットからボールペンを取り出す。
彼は「すまない」と言いながら、いつのまにかレシートの裏になにかを書き始めた。

「ありがとう」
「いえ…」

ペンと一緒にレシートを返される。レシートには、電話番号とメールアドレスらしき羅列が書かれている。

「あの、これは」
「鶯丸だ。気が向いたら連絡してくれ」
「は」
「また、伺おう」

それだけ行って、お客さんは帰っていった。これは後からわかることだが、私は彼にナンパをされていたこと。そして、彼は私目当てでコンビニに通っていたことを知るが、それはまた別の話だ。

戻る