突然だが、世の女性はどのぐらいの割合でマニキュアをしているのだろう。

色を塗るだけやストーン付き、はたまた直接塗るのではなく付け爪をしている等、派閥は様々だろう。手先にしない場合は足先にだけというのもあるけれど、さて如何程…。

緑に近い青を刷毛で足の爪へ塗りながらたわいもなく思う。
自分は塗るのが下手くそだから、どうしてもムラが出やすいため二度塗り中だ。ちょいちょいと刷毛でムラを埋め、均一になったところでマニキュアの蓋を締める。早く乾けと足の指を開きながら、ふむと先ほどの考えをもう一度頭に広げる。

マニキュアをするのは別に構わない。オシャレは自由だ。しかし、手にしている人を見るとなんとなしに眉根が寄る。自分の青緑の爪先から、両手に視線を移すと華々しい様から一転して地味な薄桃色が目に入る。そう常々思うのだ……。
マニキュアしてどう料理をしているのだろう……。女だから料理と括るわけでないが、色が乗る爪を見るたびに「貴様は料理を全くしないか?それとも、マニキュアの入った料理を食わせたいのか?」と考えが頭をよぎるのだ。自分が料理をする立場なら、マニキュアなんぞ料理に入るのが恐ろしくて出来ない心配性(チキン)だからだ。
そんな鳥野郎な自分は後ろに張り付く神様にガクブルな訳でして。

「主、手には塗らないの?」
「うん。塗らない」
「えー勿体無い!手にもしようよー!なんなら俺とお揃いにしよ!」
「塗らない」

さっきから背中にコアラ状態の加州さん重いです。
執務室で三角座りをして爪をいじる自分にくっ付いて楽しいのかと再三問うたが「うん!」と素直に頷かれては邪険にもできず放っておいたがなんなんだ。なんなんだ!
私の手を後ろから弄る加州に胡乱気な目を向けると何と勘違いしたか、更に言い募る。

「石とかさつけたら絶対に可愛いよ!!ねっ?」
「しない」
「もしかして、ねいるあーと?したいの?」
「違う」
「さっきから二語文すら喋ってないよ主……」
「審神者、マニキュア、しない」

審神者絶対手にマニキュアしないマン。
目を合わせると負けるから目をそらし、ノーセンキューを繰り返す。
えーやだーと両手をせっせっせーのよいよいよいとされる。お寺のおしょーさんがーとパチパチと手遊びには付き合うけどマニキュア的な手遊びはいらないです。私の手を畑に見立て種を植えるような動作をする加州の手は、紅が艶めいて刀を握るには少々綺麗すぎる。神様だからだろうか。

「なんでしてくれないのー!大丈夫だよ可愛くやってあげるって!」
「逆になんでやりたいんだ」

加州の手遊びは芽が出て膨らんで花が咲いた所で、手がぱっと散ってもじもじと人差し指同士をチョンチョンし始める。自分だけやればいいじゃないかと見ると少し照れっとしながら呟かれた。

「……主とお揃いがしたいー的な?」
「お揃いはいいけど紅色はないわ。趣味違う」
「意地悪っ!」
「そうだ。私は意地が悪い」

はやく諦めろん。
バッサリきってやると、顔を両手で覆いゴロゴロと襖があるところまで転がっていった。加州は、なんでー!やだー!と言いながらチラチラと指の間から私を覗いてくる。泣き脅しには屈しません。
手でバッテンを作ると加州は舌打ちしながら、また近くに寄ってきた。

「足はよくて何で手はダメな訳ー?」
「私は厨に立つんだぞ。……マニキュア入りの料理を食べたいなら話は変わるけど」
「あ、主のマニキュアなら」
「無理すんな。顔が引いてる」

諦メロンパン。と言うと加州は部屋の隅でペソペソし始めた。面倒くさい加州め。
面倒くさい加州のピカピカな爪に、近くに落ちていたキテーちゃんのシールを貼ってやる。貼ってから、足用にしているトップコートを塗ってやる。

「うん。可愛い」
「…」
「加州が可愛いなら、審神者は可愛くなくていいの」
「…キテー可愛いね。ありがと、主」

ペソペソして赤い顔はブサイクだが、笑った顔はキテーより可愛く見えた。

戻る