暦が梅雨を告げている。

彼女が住む二千年代初めより先の未来。
修正されし歴史を取り戻すための戦が苛烈を極め、時の政府が各時代の才あるものたちに協力を求めた。彼女は神と親和性が高いらしく、それを見つけた政府に頭を下げられた日を思い出す。苛烈な戦に身を置くことになり、時間の流れが通常とは違い外部を寄せ付けない地に住まなければならないと。そこは天気はあれど季節は回らないと言っていた。しかし、季節があっての生活には耐えられない。彼女は四季を愛していた。
それに対し同じような意見が多く政府へ寄せられていて、季節が回るわけではないが作り出すことができると男は答えた。なら審神者に着くと、四季に重きを置いている彼女は審神者となった。金や時代、戦を嫌がるわけでなく季節を求めた審神者として異例の事態とし、そのことは今も語り草になっているとは審神者は知らない。

閑話休題。

そんな審神者は、偽物の季節が回る本丸にとうとう梅雨の景趣が仲間入りしたことに頬を緩ませた。四季の回りで梅雨というのは万人には喜ばれないものだろう。しかし審神者はしっとりとした空気やポツポツと弾くような雨音が好きだった。
雨は恵みだと早速審神者は蛇の目を差し庭へ降り立った。

「ははは、なかなかに良いな」

一人つぶやき、雨靴のつま先を水溜りにそうっと沈ませ波紋を作る。しばらく水溜りを波立たせたあと、審神者は庭の東側へ向かう。そこへ一振りの刀剣が濡れ縁から声をかける。

「主さま!どちらに向かうのですか?」
「やぁ秋田。これから紫陽花を見に行こうかと思ってね…いっしょに来るかい?」
「是非お供させてください!」

可愛らしいお供ができ審神者は微笑んだ。
縁側の下に隠すように置かれた靴をいそいそと履く秋田もまた、審神者との外出が嬉しいらしい。跳ねる鞠ように審神者の蛇の目に入り、当たり前のように手を繋ぐ。

「雨なのに外にいるなんてワクワクしますね!」
「雨こそ外にいて楽しむんだよ」

審神者は傘を秋田の方へ傾けながら、歩いた。肩がシトシトと濡れているが、乾かせば済む話と秋田が濡れないように気をつけた。
雨が降る音、湿った地面の匂い、波紋を残す水たまり。全てが秋田にとっては新鮮で好奇心を刺激されるらしい。しきりに指をさしてはあれはなんだと審神者に問うた。

「主さまは物知りですね!」
「いやぁ、秋田も知りたがりだね」
「主さまは何でも知っているから、つい聞いてしまします」
「ははは」

私は季節のことしか詳しくないのだが。と口には出さずに笑ってごまかす。これは雑学本でも買うべきだろうかと、審神者は秋田の辞書なるため思案した。

行き先には淡い群青の紫陽花が咲き誇っている。


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