今日の具合はすこぶる悪かった。
女の子の日が2日目に突入し、頭痛と腹痛のコンボで顔色が白くて死にそうな表情をしていたらしい。誰も彼も大丈夫?と声をかけられ休むことへ誘導されてしまい、一時限目が始まる前に保健室に来てしまった。朝から保健室に行くなんて、まるで病気を患っているみたいじゃないか。と考えながらクリーム色のカーテンでガラスの向こうが見えないドアへ声をかける。

「失礼します……」
「おう、どうしたんだ?」

ガラリと開けた先には事務椅子にどっかり腰掛ける保険医の背中があった。振り向かずに言われた義務的な質問になんともなく苦い気持ちになる。
この保険医……薬研先生は苦手だ。竹を割ったような男らしい物言いと姿勢は、生徒にとっては良い先生だろう。実際に男女ともに人気はあつい。しかし、私にとっては男らしいという点がどうにも嫌で仕方ない。

「ちょっと具合が悪くて……」
「なんだ?風邪か?」
「いや、あのぅ」
「持病はないよな?」

くるりと振り返る薬研先生は中身とは正反対な儚い美青年の表情で問いかけてくる。それに対し、適当にごまかして休ませて貰えばいいのだけど口からはつなぎ言葉しか出てこない。この薬研先生の眼鏡越しの視線にさらされて誰が嘘を吐けるのだろう。少なくとも小心者の自分は無理だ。しかたなく腹をくくり、自分の具合の悪い原因を言う。

「あの、その……女の子の日で……」
「あぁ……察しが悪くてすまんな。今ベットを整えるから座って待っててくれ」

なんとなしに顔が赤くなる。
だから嫌なのだ。保険医が男の人とゆうのは。この女性独特の生理現象への察しや気遣いが悪くて羞恥を味わうからだ。制服の脇腹あたりをぎゅうと握りしめ般若心経をひたすらに思い浮かべる。恥ずかしくないぞー普通のことだー。と言い聞かせるように。
近くの丸椅子に腰掛け、薬研先生を見やると毛布を棚から取り出しベットに掛けている。医学的な気遣いができるのに、なんで女の子の日に対しての察しが悪いんだ。

「ほら、毛布を出したから寝ていいぞ」
「…ありがとうございます」
「湯たんぽとかいるか?」
「熱いのでいりません」

いそいそとベットに近づき横になる。毛布と掛布を引き寄せようとしたら薬研先生が肩までしっかり掛けてくれた。軽い暖かさに今まで痛くて固まっていた体がホッとする。

「一時限目が終わったら起こすからな」
「はい」
「じゃあ、ゆっくり」

先生がシャーと周りをカーテンで囲む。クリーム色のカーテンでベット周りが仕切られ、ふぅと息を吐いた。
お腹を握りつぶされるような激しい痛みから、重い鉛が入っているような鈍い痛みに変わり少し気分が回復する。このまま一日寝れたらいいのに。身体を丸めて熱が逃げないようにして目を閉じる。時計の音、薬研先生が書き物をしている音、グラウンドで体育をしている声。全てが遠くに聞こえて、意識が遠くにいった。


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