「主は僕が嫌いなようだ」

青江が名の通りにっかり笑いながら言ったらしい。初期刀であるはっちーが気まずそうに目を泳がせながら話した。

「ひぇ???」
「なんでも、嫌われているから明日の近侍は辞退したいそうだ……」
「ふぁ?????」

突然の遠まわしのお前嫌い報告と当番制の近侍辞退に、変な言葉がクエスチョンマークとともに口から飛び出す。

「わたし、アロエのこと嫌いじゃないけど??え??」
「真作の僕にも、流石に青江の心内はわからないよ」
「なんなん???」

あんまりにびっくりして矢継ぎ早に質問したら、疑問が煩いよ。とはっちーに怒られた。くそぅ貴様も私が嫌いかよ。泣くぞコラ。
それにしても何故、アロエは私に嫌われていると思ったのか。近侍も辞退だなんて要らぬ驚きだ。もしや、二日前におやつをアロエの分も食べてしまったから?いや、あのあとはっちーに窘められ反省して稲荷羊羹をお詫びに献上した。それとも、畑仕事で暑そうだったからジャージの前チャックを勝手に全開にしたからか?急に肌色見えてびっくりして秒で閉めたから大丈夫だと思ったんだけど。それともあれか……顕在して可笑しな名前だよねーって聞いてきてそうだねーって返したから?しかし、その後に大爆笑してアロエはよろしくしてくれた。あと心当たりはない。

「逆に青江に君が嫌われているのかもしれないね」
「それはない……ない」
「自信の無さが膝に出てるよ」

うるせいやい、膝がマナーモードなだけだ。
冷たい近侍はっちーに馬当番を言い捨て、アロエに真意を聞こうとドスドスと濡れ縁を走った。途中でうちの清みっちゃんに「主太った?」と言われたから、ウルセェ!と髪の毛を混ぜっ返してヘアスタイルのフリースタイル部門で一位を取れそうなぐらい芸術的にしてやった。それでも世界で二番目ぐらいに可愛いよ!一番は私のペットの猫のダッツちゃん(オス)だから!
目的地が見えてきた。さて乗り込んでやろう!審神者ちゃんが嫌いたぁ何事だ!

「アロエー!たのもー!!」
「腫れものを切りたいのかい主?」
「失礼しました!」

ッパーン!と勢いよく襖を開けるとアロエと砌(みぎり)丸が驚いた表情をしたが、気を取り戻した砌丸が笑顔で脅してきた。すぐに土下座をして、一旦襖を閉める。今度は濡れ縁に正座し入室することを伝え、片手で襖を開け畳へする様に入る。

「失礼しました砌丸。腫れものはないので切るのはやめて下さい」
「はぁ……主は礼儀作法の基本が身についているのだから、気をつけて過ごすんだよ」
「はい……」
「ところで青江に用があるんだろう?私は退室させてもらうよ」

ごゆっくり。と砌丸はしゃなりしゃなりと出て行った。その翡翠の背中を見送り、ようやくアロエに視線を向けるとふぃと逸らされた。おうおう、審神者は尾籠(古文で大変遺憾である様)であるぞ。

「はっちーから聞いたよ。近侍を辞退したいって。更に私がアロエを嫌いだなんて……何で?」
「主は……」
「うん」
「僕をあろえ……と呼ぶだろう?」
「そうだね」
「僕はあろえじゃない。なのに、わざとそう呼ぶなんて……」
「嫌いなんだと思ったわけ?」
「……」

ひたすら目を逸らし、含む様にアロエは言う。まるで小さい子が鸚鵡の様に自分に言い聞かせるように。些細な、でもアロエにとっちゃあ大事なことなのだろう。しかし、私にだって理由はあるのだ。簡単に決めつけてもらっちゃぁ困る。

「青江、私は君ひいてはこの本丸にいるみんなが大好きだ」
「主……」
「あのね、私は阿保だけど。阿保なりに考えて呼んでいるんだ。私はみんなをあだ名で呼ぶだろう?それは私ごときが神を名で縛ってはいけないと考えたからだ。神を人間に下らせるなんて、私はしたくない。だから、青江はアロエと呼ばせては、くれないかな?」

逸らす視線を自分に合わす様に顔を固定すると、アロエはびっくりした様に目を開いて固まっている。
けれど、言いたいことは言い切った。

「じゃあ、明日は近侍よろしくねアロエ」

アロエのように、にっかり笑いかけて部屋を後にした。途中で砌丸に「主は阿保じゃなく浅知恵なだけだからね」と言葉を頂いた。解せぬ。

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