へしきり長谷部

銘の由来は、かの織田信長が茶坊主を棚ごと圧し斬ったためと伝承されている。気性は主人に忠誠を誓い、任された命を「主命」と言い完璧に遂行させる。打刀の中で抜群の機動を誇る。



カチカチとマウスを動かし、ネットの審神者版の刀剣男子の総評を見やる。これが、中々に面白い記事で各本丸ごとに刀剣男子に個体差が現れている。
たとえば「うちの加州はドライカシューナッツ。基本、しっかりしてる」や「うちの乱ちゃんは最近、スカートの裾を持ち上げて挨拶するのにハマっている」だとか。
しかし、根本的な部分は似ているらしく総評はみな同じようなことが書いてある。特にへしきり長谷部は個体差例が少ない。みな、「主命」と言い社畜の鑑と書かれている。
そんなことはないのに。パソコンから目を離し、後ろを向くとへっしーこと、我が本丸のへしきり長谷部が至福そうな顔で栗羊羹を頬張っている。

「へっしー栗羊羹美味しい?」
「はい、大変美味しいです」

はふぅ…と桜が舞い、部屋が桃色に染まる。いやいや、審神者部屋は春かな。ひらひらと畳に積もる桃色を手で軽く払う。
今はこんな菓子切り長谷部で甘党な刀だけど、うちの本丸に来た時はそりゃあ傑作だった。

うちは、拗ねらせた国広やら馴れ合わない倶利伽羅、和睦(物理)の江雪さんとか一癖も二癖もある刀が多い中、長谷部の様なタイプは物珍しいかった。

「へしきり長谷部と申します。どうぞ、長谷部とお呼びください」
「わかった、へっしー」
「へ、へっしぃ?」

口をぽかんと開き、眉を下げ困惑した表情はなかなかに面白かった。へっしーへっしーと呼び、何度訂正されてもへっしーと呼び倒した。ゲシュタルト崩壊しそうなレベルで呼びまくった。それに対し諦めたのか、へっしー呼びがだんだん定着してきた。
そして、主のためと異様に頑張ってくれるものだから誉を取る度にお菓子をたらふくあげた。和洋関わらず軽菓子から重菓子まであげた。気分は孫にお菓子をあげるお婆ちゃんだ。
はじめは恐れ多いと受け取るのを渋っていて甘いものは嫌いかと思ったけれど、部屋に用事を伝えに行ったら桜を舞わせながら幸せそうに食べていたのを発見した以来、長谷部=甘党が出来上がった。

回想からお菓子を頬張る長谷部に気を向けると、まだ味わう様に食べている。なんともいじらしい。わたしの分も栗羊羹を押し付けてやると、すまなそうにしながら桜が視界を埋めた。

「へっしーは本当にお菓子が好きだね」
「はい、好きです」
「うんうん、甘いものは美味しいよね」
「いえ、主がくださるから好きなんです」

ぱくりと栗羊羹を食べながら、へっしーはとろける様な笑みで私を見てきた。なんということでしょう。うちのへし切長谷部はすこぶる可愛らしい。


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