グルル…となんだか切なそうな音がした。

小夜左文字は首をひねった。内番で畑の水やりをしていたため、小夜の周りにはトマトやナスしかいないはずだからだ。一緒の当番だった三日月はつい先ほど腰を痛めて手入れ部屋に行ってしまった。さて、誰だろう?とぞうさんの形のジョウロを置き、音がなった方へ歩いた。

「主?」
「あ、小夜ちゃん」
「危ないよ、」

音の方へすこし歩いた先に審神者がいた。
そして、何故だか彼女は木の上にいる。小夜は、落ちたら危ないよ以外とおっちょこちょいなんだから。と言おうとしたが楽しげな審神者に水を差すのが忍びなくなり止めた。その代わりに何をしていたか尋ねよう。

「何してるの?」
「実はね、小腹が空いたからさももを食べようとしてるの」
「桃…?木になってるの?」
「あ、違うよ!この木は桃の木じゃなくて……えーと、桃が一つしかなかったから、見つからないように食べてるの」

みんなで分けると食べた気がしないような量になるから。と審神者は眉を下げた。
その間、小夜は彼女が持っている桃に釘付けだった。刀から人の形をとってから様々の食べてきたがら小夜は桃はまだ食べたことがなかった。

「…小夜ちゃんも食べる?半分こだけど」
「いいの?」
「その代わり小夜ちゃんも共犯ね」

そう悪戯っ子の様に人差し指を口の前に立て笑う審神者に小夜もこくりと頷き、口元に人差し指を立てた。そのとき彼女は小夜の可愛さにうっかり木から落ちたが、受け身をとったので怪我はなかった。

「大丈夫?足は平気?」
「いや、うん大丈夫。桃も無事だよ」
「桃より主が心配だよ」
「やだ嬉しい」

小夜は落ちた審神者を気にかけたが、彼女は至って平気そうだ。デレっとした顔がそれを物語っている。
気を取り直して、審神者は懐から果物用の刃物を取り出し桃を綺麗に割る。果汁がしたたり、甘い香りがする桃に小夜はそわそわと落ち着けずにいる。

「はい小夜ちゃん。果汁に気をつけてね」
「ありがとう……いただきます」
「いただきまーす」

小夜はすんすんと桃の甘い香りを嗅いでから、実の薄紅に色づいた部分におそるおそる歯を立てた。

「!」
「どう?美味しい?」
「甘くて美味しい…」

じゅわと口に広がる果汁にほっぺたが落ちそうになる。と小夜はその美味しさを一生懸命審神者へ伝えた。

「そんなに美味しいなら、また食べようね。今度はみんなで」
「うん…!」

その日、小夜は桃が柿の次に好きな果物になった。




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