主様、主様と後ろから袖を引かれる。
なんだなんだと振り向いたら、ほっぺに硬い感触がむにゅっと当たる。

「奪ってしまいました」

視線を上にやると、まるで鼻歌でも歌いそうなほど陽気な顔の小狐丸がいた。やられた、と私は負けた気分になった。

小狐丸と私は仲が悪い。
仲が悪いというか馬が合わない。小狐丸が白と言ったら私は黒だし、右と言ったらその逆を選ぶ。要は、正反対なのだ。
しかし、この狐は主に合わせるなぞはしない。さすがマイペース平安組の一員。そのかわり、この気が合わない主が自分に構われて嫌な顔をするのが愉快らしい。なんて意地が悪い。

未だにほっぺを押す指を離すよう、手首を掴み遠ざけると狐の手をしていて尚更馬鹿にされている気分になった。

「やめて小狐丸」
「それは出来かねまする」
「……」
「主様はまことに悪戯しがいが御座います」

にこにこと上機嫌に笑い、狐の手でわたしの髪やほっぺを摘んでくるコイツに最早呆れてきた。真面目に取り合えば取り合うだけ、わたしが疲れる。
暫く距離を置きたい。小狐丸に振り回されるとどうにも一日中、胸の内が悪い。どうにか離れられる方法はないか……。

「……そうだよ。小狐丸、あんた暫く遠征に行ってきて」
「…それは何故、私が行かねばならぬのでしょうか?」

一拍おいて聞き返してくる小狐丸はにこにこと笑っているが、なんだか雰囲気が重い。なんなんだ。と思いつつ、取り繕う余裕もなく素直に自分の気持ちを呟く。

「疲れた」
「は?」

あんたを相手にするのが疲れたんだ。と改めて言うと、小狐丸は笑顔のまま固まった。
ははぁ、遠征が嫌か。と思い、距離置くついでに日頃の感謝だ、長時間遠征にしてやろう。

「編成はあとで伝えるから遠征に行ってきて。異論は認めない」
「あ、主様…」

いい気味だ。復習を果たした気分で去ったわたしは小狐丸が泣きそうな顔をしていたことは知るよりもなかった。

副題【鈍感審神者と構ってほしい小狐丸】

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