「主の茶が飲みたい」
「えっと……今?」
「あぁ」

今深夜ですけど…。
困惑した顔をするけど、鶯丸はどこ吹く風だ。
布団に入ってからようやく冷たい足が温まってふわふわと意識が落ちたと思ったら、息苦しいさと圧迫感を覚えた。すわ、金縛りか怖い。と頭の中に石切丸を召喚し「脳内はらきよ」してやり過ごそうとしたが、スリリと頬を手のひらで撫でられる感触にびっくりして思わず目を開けてしまった。そしたら、障子からの薄い月明かりの中で鶯丸が笑いながら私の上にいた。
こんな時間にまでお茶が飲みたいとは流石お茶ラー。まじホラー。

「鶯丸…お茶はわかった……けど、重い……」
「そうか」
「いや、返事じゃなく……どけて……」

下っ腹にデンと乗っかられて苦しい。さすが、刀をぶん回す成人男性型神様だ。本丸では線が細い部類に食い込むが、重いし抜け出そうとしてもびくともしない。全体重を掛けているわけではないだろうが、少し苦しいし止めて欲しい。そう伝えても、鶯丸は上機嫌に笑ったままだ。これじゃ彼のご所望のお茶を淹れられないんだけどな。
訴えるようにじっと鶯丸を見ていると、顔を近づけてきて再び頬を撫でられる。妙にぬるい体温がむず痒い。

「主は綺麗な目をしているな」
「…ありがとう?」

うっとりというか、うっそりと笑う鶯丸。急に目を褒められて、嬉しいより困惑が湧いてくる。私の黒い瞳より、鶯丸の人では絶対にでない色を宿した瞳の方がその言葉にふさわしいのではないだろうか?
ん?これなんだか雰囲気おかしくない?
急に真夜中に布団の上、瞳が綺麗ですねなんて、恋人か?いや違う。しかし、お茶が飲みたいと言っていたけど、なんだか喉が渇いた(意味深)みたいじゃない?
私、寝ぼけてるのかな……。と自分の目を擦ろうとすると、鶯丸に手を掴まれる。

「主、目を触るな。傷がつく」
「あ、はい」
「痒いなら…接吻でもしよう」

何故に接吻?と突っ込む間も無く、瞼に柔らかく唇が押し付けられた。ひぇ。
そのまま額、鼻筋、頬と順番に押し付けられる。待って、審神者、ついていけない。

「う、鶯丸……」
「なんだ?もどかしいのか?」
「いや、えっと……私、眠いです」

寝かせてください。と迫ってくる鶯丸の顔を手で押しやる。鶯丸。君は私のハニー()でもダーリン()でもないんだよ。
すると、顔を押しやっていた手をベロリと舐められた。やばい、流される。と手を引っ込めようとしたら、指先を口に含まれた。う、わぁ……。

「ダメだ。逃がさない」
「ひっ、くすぐった……」
「眠いなら目を覚ますようなことをするまでだ」

そう言って近く手が布団を剥ぎ取り……。
不敵に笑う鶯丸に押し負けたことだけは記しておこう。





解説

昔の床への誘い文句。隠語。

「お前の茶が飲みたい」

「お前とまぐわりたい」

由来は茶臼の中の構造から。


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