院内内線で入院患者が迷子だと連絡がきた。
思い当たる節があり(むしろ、思い当たる節しかない)目的の患者が寝ている病室に向かえば、ベットはもぬけの殻だった。

「三日月さんまたですか!」
「はっはっは、すまんな。ちと歩きすぎた」
「安静にしないとまた立ち上がれなくなりますよ……」

迷子報告を受けた科にいくと、ほげほげ笑って手を振られた。
そばにいた科の婦長に申し訳なく思い頭を下げると、このくらい元気なら三日月さんも無事に退院するわね。と笑い飛ばされた。

受け持ち患者の三日月さんは若々しいのに妙に古風な言葉で話す。自分をジジイと称す、少し変わった患者だ。現に、腰を悪くして入院しているのにも院内をよく歩き回っている。

元気なのはいいですが、放浪癖はなんとかして欲しいです……。

「今度から散歩に行く際は近くの看護師に声を掛けてください……」
「うむ、気をつけよう」
「そうしてください…」

隣に並び、三日月さんがまた何処かに行かないように気にしながら廊下を歩く。丁度、今日の外来診察と面会時間が終わった時間だからか、人影はない。パタリパタリと三日月さんが履いているスリッパの音がよく響く。

「三日月さん、腰は痛くないですか?今日もたくさん歩いたでしょう?」
「なに、もう治りかけだ。痛くはないさ」
「治りかけで油断するとまた腰を悪くしますよ?」

それに対し、三日月さんは笑って兜の緒を締めるのだな?あいわかった。と笑う。本当に分かっているのだろうか?

「また腰を悪くしてしまったら退院が遅れてしまいますよ?もう少し回復するまで散歩は病棟内に留めてください」
「ふむ……それはいいかもな」
「分かっていただけました?」
「うむ、もっと歩こう」
「……えっと、?」

話を聞いていたんだろうか?困惑して三日月さんを見ると、含みを持たせた笑みを浮かべこちらを見ている。

「退院が長引けば、看護師さんと長くいられるな」
「え……、」



その理由は適応できません。させません。



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