七夕の短い話。

「ねぇ、薬研。ちょっといい?」

ふと、薬を混ぜていた乳鉢から顔を上げると大将が含みを持たせた笑みを浮かべている。
大将が審神者をはじめてから早い段階で自分はいたため、この笑みは大方「お願い」でもあるのだろう。混ぜ途中の乳鉢を離れた場所に置き、改めて大将に向き合う。さて、どうしたもんか。

「どうしたんだ大将?」
「あのね、今日は何の日かわかる?」
「今日……?」

一体、何の日か……?と考えていたら、七夕だと控えめに大将から答えが告げられた。あぁ、今日は七夕か。
自分には縁のない話題だとしか思わなかった。

「それでね、薬研に短冊を書いて欲しいんだ」
「俺っちにか?」
「そう!せっかくだから、みんなの願い事を書いてもらおうと思って」

そう言い笑顔で藤色の短冊を差し出してくる大将は、子供のように楽しそうだ。こんなに七夕を楽しんでいるのだ。乗るのも、大将への花持たせだろう。礼を言いながら藤色の短冊を受け取る。
しかし、受け取った短冊へ書く内容がない。

「……大将、願い事がない場合はどうすればいい?」
「え、薬研は願い事ないの?」
「特に不自由はねぇな。だいたい、誰かに願うより自分で叶える方が性に合ってる」

そう言い切ると、大将は「さすが、本丸の兄貴ね」と笑った。そうだ、人任せはむず痒い。そして、自分の願い事より他人の、大将の願い事を叶えてやりたいと自然と思った。

「んー……じゃあ、誰かのことをお願いしたら?」
「俺っちも今、そう考えついてな…」
「そう?まぁ、書いてくれるだけで嬉しいんだけどね。行事はみんなでやった方が楽しいし」

じゃあ、書いたら出すように。といい大将は次の短冊を渡しに行った。
大将の背中を見送りながら、きっと後で自分の短冊を見るときは面白い反応が見れるだろうと口角が上がった。


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