ろく(次屋 三之助)


かん太は不思議な奴だ。

俺が作兵衛がすぐ探せないぐらい迷子になったも必ず見つけるし、遠くにいても俺に手を振ってくる。あと独特の訛りを話す。
目がいいのか?と一回聞いたことがあるけど、曖昧に笑ってた。なんなんだ。

「それを本人さ、くっちゃべんのはどうがど思うぞ」

隣に座ったかん太は、今日の定食の魚をよくほぐしている。箸の先端をかじりながら、もう一度わからねぇわと呟いた。

「俺はわがりやすいべした」
「わかんないから聞いてんの」
「ほだが」

ほら、また。独特の濁点がついた訛りを話されると聞きずらくて仕方ない。その一言で、会話が止まっちまう。そう断言すると、かん太は鼻を指でこすった。

「かん太ふつうに話してみろよ」
「しねよ」
「え?死ねよ?酷くね」
「しないよっつたんだべ」
「なんだ紛らわしいな」

えいっと肩をゲンコツでつつくと、効かね。といって笑われた。
すこし、むっとしたけどかん太は俺と同じぐらいの背丈だけど、ガッチリしてるから仕方ないか。味噌汁啜りながら、ちらっと隣を見るとまだ魚をほぐしる。

「…ふつうに喋ったら、なんだか自分の故郷のこと忘れそうで怖いんだ」
「お、おう。」

ふつうに話させんのはダメかー。と諦めてたくあんを齧っていたら、ぼそっと訛りのない言葉が聞こえた。話せるんじゃん。と思った反面、違和感が喉につっかえる。

「三之助も知ってる通り、僕の故郷はここからずっと遠くにある。夏休みにも帰れないぐらいに。…だから、寂しいのかもね」

寂しそうに笑ったかん太にやっぱり訛って話して欲しいって無性に感じた。

「俺のから揚げあげるから、やっぱ訛ったままでいてよ。」
「いいんが?おしょし」

ふつうに話させんのはもう止めとこう。




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