ご(富松 作兵衛)


この間、左門がまた迷子になった。

なっただけなら、まだいつも通りだ。
しかし、戦場近くの川に行っていたらしい。話を聞いた瞬間に思わず左門の頭を叩いた。
もし巻き込まれて忍術学園の生徒だとばれ、拷問されたらどうすんだ!頭をよぎる最悪の事態によく回避できたな、とため息を吐く。お茶なんぞ飲みやがって呑気な奴だ。

「いや作兵衛、僕は一人で帰ってきたわけじゃないぞ!」
「は?なんだ誰かと一緒だったのかよ」
「あぁ!かん太が探しに来てくれたんだ!!」

喉を鳴らしながらお茶を飲み、左門はバリバリと煎餅を齧った。なんで、こいつはこう気が抜けるような奴なんだ。

「かん太に見つかって良かったじゃねぇか」
「そうだな。しかし、僕はあの日から気になっていることがあるんだ」
「気になっていること?」

かん太に見つけてもらった時に何かあったのか。自分の湯呑みから、左門へ目を移すと珍しく真剣な顔をしていた。いつもそうしてりゃあいいんだけど。

「あの日、喉が渇いたから川の水を飲もうとしたんだ」
「あぁ」
「そしたら、かん太が飲んじゃダメだ。って言ったんだ」
「…ただ単に早く学園に帰るためじゃねぇのか?」

田村先輩に呼ばれてたんだろ?だから、水飲んでる暇があったら早く連れて行きたかったんだろ。そう言うと、左門は「作兵衛じゃないんだから」とお茶を飲んだ。俺じゃねぇってどういうことだオイ。

「飲んじゃダメだ。って言われて帰った後、三之助が川に屍体があったと言ったじゃないか」
「そうだな。…おま、それって」
「その川は僕が水を飲もうとした川なんだ」

でも、屍体があったのはその川の上流で普通川が汚れてもわからないはずなんだ。どうして、わかったんだろう。と左門は呟いた。
なんだ…それ…。つまり、それは、屍体の浸かった水を飲みかけたっつうことだろ?
途端に背筋が薄ら寒くなった。

「なぁ、作兵衛何しったな?」
「うわぁああ!!?」
「え、なした?!」

左門の話に気味悪がっていると、ポンと肩に手が置かれ思わず飛び上がった。後ろを見るとかん太だった。

「お、驚かすなよ!」
「ごめんって…。なしたな?」
「気にするなかん太。作兵衛はビビりだからな!」
「うるせぇよ!だいたい、お前があんな話するからだろ!!」

またため息を吐いて、食べかけていた煎餅をかん太に押し付けた。とてもじゃねぇが、今は食いモンは食えなかった。




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