さん(三反田 数馬)


いつもどおりに保健委員会の仕事をして、いつもどおりに不運な目にあった。

また、一個上の先輩が掘った蛸壺に落ちてしまった。何度も下を見て確かめたし、足の体重移動にも細心の注意をした。したのに。

「たすけてー」

不運の二文字に負けた。
上から幕のように垂れ下がるトイペが、風に煽られてひゅるひゅるしてる。いとおかし。
さぁ、誰が気がついてくれるかな。と予想するのが最近のブームになりつつある。

「誰がいませんかー?」

かー…かー…と僕の声は蛸壺に反響しながら消える。もう嫌になるなぁ…。ため息をつくと、蛸壺の中が暗くなった。

「なー数馬ぁ。助け呼ぶどぎ、途中で止めねでよ」
「うわっかん太?!」
「さえさえ声聞こえねくて探しずれぇ」

しばらくモグラか…。と思っていたら、かん太が縄梯子持ってやって来た。
そのとき、彼の後ろから後光が差して見えたのは逆光のせいだと思いたい。南無。
無事にかん太に助け出され、蛸壺から出て大きく伸びをした。

「ありがとう。まさか、見つかるとは思ってなかったよ」
「そが。数馬の声は聞ぐんだげど、さえさえ探しずれくて見つけらんにんだ」
「え?さえさえ?」
「いっつも」

落ちていたトイペを拾いながら、へぇ…。と相槌を打つ。
訳すと、「数馬の声は聞こえる。けど、いつも探しずらい」ということだ。…ん?いつも?

「ねぇ、かん太。それって僕が何処に落ちても聞こえてるってこと?」
「んだ」

なにそれ知らなかったよ!と目をむくと、わざわざくっちゃべんね。と苦笑いをしながらトイペを半分攫っていった。なんだそれ。

言ってくれれば、君を呼ぶのに。




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