に(浦風 藤内)


流星錘はあらぬ場所に飛んで行った。

今日は実技の予習をしようと数馬と別れ、練習場にやって来た。
三年生になると実技が格段に難しくなる。きっと戦場実習がある四年生までに十分な経験を積む為だ。しかし、慣れない武器の扱いは中々に難しい。特に僕は、流星錘の様な縄の先に重しが付いたものの扱いが特に苦手だ。

「振り回すと、自分に、当たるんだよなぁ…」

腕の付け根から手先に掛けてグルグルとよく回しながら呟く。ボヤいたって仕方ない。やるか。そう考え、手にとったはいいが使ってすぐに手から離れていった。

「痛っ…」
「え、」

ヒュッと手から離れていった後、間髪を置かずに人の声が上がった。まさか、人が近くにいるとは思わなかった。慌てて振り返ると、手から血を流したかん太がいた。

「あぶねぇぞ藤内」
「危ないのはかん太だよ!どうして近くに来たんだ?」
「いや、藤内がここさいだがら…」

声を掛けようとしたら流星錘が飛んできた。から掴んだら怪我した…。とシュンとまるで叱られた子供のように萎縮してしまった。僕より大きいのに。

「ごめんね、でも危ないから見かけても遠くから声を掛けてほしい」
「今度からする…」

落ち込まないで!と手の血を手ぬぐいで拭いながら、腕を撫でると「ん」と小さく返事をした。飛んでいった流星錘を受け取りながら、手ぬぐいを少し不恰好だけどかん太の手に結ぶ。

「おしょうし。洗って返すがら」
「いいよ。僕も悪かったし」

やっぱり僕は流星錘向いてない。と息を吐きながら言うと、彼は少し目をそばめた。

「藤内らしぐねぇべ」
「僕らしく…って何?いきなり」
「藤内は向いてる向いてね関係なしに、予習するっつったら出来るまでやり続ける奴だ」

真っ直ぐに目を合わせてくる。がってんしぬのが?とかん太が呟く。なんだよ、がってんしぬって。不貞腐れたように問う。

「諦めるのが?って意味だ。」
「なに…それ。」

僕は諦めるために予習してたんじゃない。彼の言う通りだ。出来ないことをできるようにするのが僕じゃないか。

「…もう一回やってみるよ」
「んだが」
「でも、一人でさ、やると分からなくなるから、かん太にいて欲しい。」

一緒に予習しようよ。と言うと、かん太は目を細めて笑った。




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