よん(神崎 左門)


今日も委員会の部屋が迷子らしい。

なかなか着かない目的地に僕はふん、と鼻を鳴らし眉を潜めた。
今日も帳簿つけがあるから早く行って早く終わらそうと考え、授業が終わった瞬間に教室から走ったが着いた場所は山の中の沢だった。ザーッと流れる清流に苔むした岩、たまに見える魚影が涼しげだ。

「学園の中にこんな場所があったのか!」

それにしてもいい場所だ!今度、三年生のみんなを連れて来よう。また来れるかは別として!
さて、どうしようかと沢を眺めると流れる川の水が美味そうに見えてきた。今まで走っていたためか、喉がカラカラだ。きらきら流れる水に手を差し込むと、ひんやりとしている。そのまま手を皿にして、水を掬い一口…。

「左門?」
「うわぁああ!?」
「お?びっくりさせちまったが?」

思わず、尻餅をついた。声の主を見るため上を見上げると、かん太が苦笑いをしていた。ごめんなぁ。とかん太は尻餅をついた僕の手をとり、ぐいっと持ち上げてくれる。三之助ぐらい背が大きいかん太は、危なげなく僕を地面から引き上げた。

「びっくりしたぞ!!」
「ごめんってば」
「いつからいたんだ?」
「左門が川の水を掬ったあだりぐれぇから、声かけったんだげど」
「気付かなかったぞ?」
「そりゃ、忍者の卵だがらな」

それだったら僕もそうだ。と思ったけど、こくりと口を閉じた。

「そーいえば、田村先輩が左門のこと探しったったぞ」
「何っ?!」

それは早く行かねば、サチコやらユリコの的になってしまうじゃないか!!
手を繋いだまま詰め寄れば、かん太は困った顔で指で鼻を擦った。(それは、よくかん太がする癖だ。)
帰ったら三木ヱ門先輩がうるさそうだが、結果的には良かった。これで委員会に行ける。しかし、さっきまで喉が渇いて川の水を飲みかけていたのを思い出し、また喉がきゅうと渇いてきた。

「かん太、僕は喉が渇いた!!」
「ん?飲みもんか?」
「いや、川で十分だ」

また川に手を入れようとしたら、ぐっと腕を引っ張られ前につんのめった。何なんだと、腕を引っ張った張本人を見る。

「いけねぇ左門。学園さ帰ってから飲め」
「なんでだ?」
「いけねぇ」

腕をぐいぐいと引っ張り、いけないいけないと繰り返し困ったように言われた。結局、川から離れ学園に引きずられるように帰った。何だかよくわからなかったが、かん太がダメだ。と言ったらきっとダメなのだ。

後日、体育委員会から近くの沢に戦の屍体が流されていた。と報告があった。




prev | next